るろうに剣心*short*
□眩暈
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眩暈がする。
「起きろ、この阿呆。」
「んー…」
ゆさゆさと肩をゆさぶられながら、甘い声に壬桜の脳が反応する。
「こんな所で潰れやがって。どこまでも阿呆だな」
呆れたような物言いと息を吐く音、そして嗅ぎ慣れた煙草の香り。
酒で微睡んでいても壬桜の目は勝手に開いて斎藤を捕らえてしまう。
きっと張が呼んだのだろうなとぼんやり壬桜は思いながらも、こんな事になった原因の張本人の登場に眉を潜めた。
「斎藤が悪いんじゃない…。」
つい壬桜の口をついて出た言葉。不鮮明な意識の中で今日の斎藤の姿が思い出される。
巡回の最中、藤田五郎として過ごしている斎藤が女性に声を掛けられ言いよられている姿。
藤田五郎は今目の前にいるような柄の悪い男と違うから断れないのも分かるが、恋人として面白いわけがない壬桜は張を捕まえ酒を飲んでいたのだ。
「…ともかく、帰るぞ迷惑だ。」
斎藤はそう言い、壬桜の体を軽々抱き上げると店主に、勘定はここに置いておくと言い残しそのまま店を出た。
斎藤に抱えられて壬桜は彼の顔を眺める。
「さいとう」
「なんだ酔っぱらい」
目線を少し下に下げると明らかにいじけた表情の壬桜が斎藤の目に入る。だが斎藤は素知らぬふりをした。
「…さいとーなんか、キライ」
「そうか」
特に興味もないように斎藤から壬桜はあしらわれてしまう。
壬桜はそれが悔しくて斎藤の胸の辺りのぎゅっと掴むと、斎藤が鼻をならして笑う。
「そう、いじけるな」
「いじけてない…」
「そんなに女に言いよられてるのが嫌だったのか」
「なっ…!」
「気付いてないとでも思ったかこの阿呆が」
「…」
驚きとくやしさが顔にでてしまっている壬桜に斎藤はほくそ笑んだ。
斎藤は最初から全部知ってた、その事が壬桜には恥ずかしくてたまらなかった。