るろうに剣心*short*
□不器用な君
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「ちょっと…!やめてくれない…?」
「まあまあ、別にいいじゃない」
変なのに掴まってしまった。酒に浮かされた頭で、ぼんやりとどうやってこの状態から、逃れようか変に冷静に考えている自分がいる。
「それにしても、お前、ほんといい女だなー」
「!…くっつかないでくれます?」
ああ、もうほんと勘弁してほしい。
すでに出来上がっている男は馴々しく肩に手を回してきて必要以上に顔をくっつけてくる。
自分も十分酒臭いのだろうけど、この男の酒臭さは、ほんとに半端じゃない。しかも、離れようとすればするほど、なぜかどんどん距離を近付けられる。
1人で呑んでいて、隣に座っていいか聞かれたとき、なぜ断らなかったのか、数分前の自分がほんとに憎たらしい。
「ほんと、止めてくれる?」
「つれないなあー。姉ちゃんも寂しくて呑みに来たんじゃないの?」
「一緒にしないでよ」
私の言葉に男が驚いた。
「あら、男持ち?若い女が1人でこんな遅くまで呑んでるからてっきり俺は、姉ちゃんがそういう相手探してるのかと…」
そういって厭らしい笑みを浮かべた男がするすると腰の辺りを撫でてくる。
全く、男の言う通りである。何が悲しくて恋人がいる若い女が、1人で酒を煽って酔っているのか。
男は私に内緒話でもするかのように顔を近づけた。
「なあ、お前その男に不満があるんだろ?例えば…夜とかさ?」
「何が…」
「なんだ、図星か。だったら俺と遊んでくれてもいいじゃねえか」
「誰があんたとなんか。一夜だって共にしたくない」
腰に回された手を叩き落としてやると、男はおっかねえとわざとらしい仕草で肩をすくめた。
事実、男の言ってることが、半分当たっているという事が私の機嫌をさらに損ねさせた。
「ねえ、男はみんなそうなの?」
「そうってなにが?」
「だからそういう事しか頭に無いのかって事」
「そりゃー男だからね」
「好きな人に対しても?」
「当たり前だろ?寧ろ好きなら尚更だろ」
『当たり前』と言う言葉に耐えきれず、ため息が零れた。
私にだってわかる。普通の男なら、そういう、好きな女を抱きたいと言う感情が、多かれ少なかれあるという事。それを女もわかって2人で愛し合う事。
でも、私の恋人である蒼紫は、それを求めてこない。
「やっぱ、うまくいってないってわけか」
「違う。だからくってかないで」
また馴々しく擦り寄るようにしてきた男をあしらいながも、頭のなかでは、いろんな感情が入り交じる。
うまくいってない訳ではない。自分で言うのもなんだが、大事にされているという自覚はある。それに、抱かれたことが無いわけでもない。ただ、彼は一度私を抱いてから私を求めることをしてないのだ。
感情表現が苦手な蒼紫だからこそ、そのことが私を不安にさせる。何時だって自分は蒼紫のことを好きなのに、私には彼の心が見えない。
自分が女として、必要に感じられていないのではないか。考えるのはそんなことばがりだ。