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□熱烈視線
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俺は今、物凄く重大な行為をしようとしている。そう、その行為とは 告白だ。けれど俺の想い人は誰も知らない。
さっきから言っている想い人とは同じクラスの滝沢要という男子だ。俺より余り変わらない身長に癖毛の茶髪。整った顔立ち、細身の身体。ぶっちゃけ、一目惚れだった。俺は彼を見た瞬間恋に落ちたのだ。

そして告白しようとしている俺は彼を放課後の教室へと呼び出した。今はもう放課後。教室へは俺と滝沢君しか居ない。
目の前には大好きな人が居る。鼓動が余計に速まってしまって心臓が保つか心配だ。


「…加瀬君、話って…何?」
ぼーっとした目が俺を見上げる。

「あ、いや…えっと……」
不意に名前を呼ばれて心臓が跳ねた。

思わず目を反らしてしまう。目が見れなくなる。俺は俯いて言葉を紡いだ。



「…っ俺、滝沢君が好き…なんです。その…恋愛対象として」
拳を握り締め、小さな声で告白する。

どうせ無理だろう、気持ち悪がられるかな。そんな感傷的な思いばかりが脳裏を過ぎてゆく。何だか泣きそうになる。
まあこれはダメ元の告白な訳で。叶わないと分かっていても想いを抑え切れなくて。
 
俺は滝沢君が好きなんです。大好きなんです。君の声が 顔が 全てが 大好きなんです。そんな想いばかりが汚らしく零れ落ちて。それは自分ではどうにも出来ないんだ。
抑えようとしているのに 溢れてしまう。どうしようもなく好き。溢れる想いは留まる場所を知らない。



そして 彼が呼吸をする音が聞こえた。きっと駄目なんだ。断られてしまうんだろう。ネガティブな俺にはそんなことしか予想出来ない。

しかし発せられた台詞は意外なものだったのだ。


「知ってるよ」
聞いた瞬間に身体の力が抜けた。

…知ってる?どうして?頭が追い付かないまま立ち尽くし言葉を失う。知ってるよ、と言った彼の声が脳内に響き渡るような感覚に襲われる。
気付くと彼に抱き締められていた。そんなに変わらない身長だが彼の方がほんの少しだけ低い。ああ、いい匂いがする。香水とかじゃなくてシャンプーみたいな香り。こんなことを考えている場合じゃないのに考えてしまう。

「何で、知って…?」
あやふやな言葉でそう尋ねた。

「何度も目、合ってたから」
バレてた。え、どうして。そんなに俺は見ていたのか、滝沢君のこと。しかも何度もバレてたなんて。
 
「…最悪っ……泣きたい」
彼の肩に顔を埋めて呟く。最悪だ、本当に。

「何で最悪?俺は嬉しいけどな」
ぽんぽん、と優しい手が頭を撫でる。

………嬉しい…?今、嬉しいって言ったのかな。何が嬉しいって言ったんだろう。
ていうか俺 今、滝沢君に触れてる…よな。抱き締められてるし。え、いいのこれ。滅茶苦茶幸せなんだけど。あ、でも心拍数上がってるから鼓動聞こえちゃう。

「…ご、ごめん!」
勢い良く彼から離れた。離れても未だに心拍数は上昇しっぱなしで収まらない。

初めて彼に触れた。いつも見てるだけだったから触るなんて考えもしなかったのに。まさかこんな簡単に触れられるなんて。
しかも頭撫でて貰えたし。案外手は大きくて細長くて、冷たい手をしていた。それが何だか心地良かった。

「いつも俺を見てたよね、加瀬君は」
ニヤリと笑む彼はどこか悪戯っ子のようにも見える。

「……っ!!」
思わずその言葉に動きと思考が止まってしまう。

視線に気付かれていた。しかも何度も。俺は目が合う度に目を反らして気付かれないように心がけていたのに、それさえも見抜かれていた。

「あれだけ熱い視線送られたら気付かない方がおかしいよ」
相変わらずの表情で滝沢君が言う。
 
「あ、えっ…え?」
きっと俺は今、挙動不審だろう。何て言っていいか分からずに意味不明なことを言ってしまった。

きっと気持ち悪いんだろうな、俺。振られるなんて分かりきったことなのに告白なんかして。
想いが抑え切れないからって好きな人にこんな醜態を晒してしまった。何だかもう消えてしまいたい。


恥ずかしさの余り教室から走り出そうとした。…が、それが叶うことはなかった。加瀬君に腕を捕まれていたのだ。どうして引き止めるんだろう。
どうせ振るつもりだろうからわざわざ引き止める理由なんてないのに。頭が混乱していて何だか涙が出て来てしまう。俺の顔を見た滝沢君は驚いたように目を見張る。

「ごめん…泣かないで」
彼が制服の袖で涙を拭ってくれた。ぼやけた視界に滝沢君の顔が映り込む。

こんな時にまで優しくするのはやめてほしい。余計に涙が溢れ出して止まらない。それを彼は何度も何度も拭い去る。
これ以上は泣き顔を見られたくなくて両手で顔を覆った。だってこんな情けない自分を見られたくないから。人前でこんなに泣くなんて本当に格好悪い。好きな人の前だから余計に。

告白なんてしなければ良かった。こんな恥ずかしい思いをするのなら、自分の中に気持ちを留めておくべきだった。
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