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□熱烈視線
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「加瀬君」
名前を呼ばれると突然両腕を掴まれ顔が露わになる。

「なっ…何」
そう言うが早いか机に押し倒されてしまう。





直ぐ近くに滝沢君の顔がある。というか、目の前が肌色一面でどこが何だか分からない。
掴まれた腕は固定されて動かせない。その身体からは想像出来ないような力で意図も容易く動けなくさせられてしまった。

暫くして身体が離されるが腕は固定されたままだ。全身の力が抜けて力が入らない。

「俺も加瀬君が好きだよ」
予想外の答えに頭が着いて行かない。からかっているのだろうか。それにしては目が真剣だ。

囁くようなその声と熱を帯びたような瞳が俺を捉える。目が離せない。


「冗談…」
押さえつけられている為、顔を背けることが出来ない。

「本気だよ。加瀬君が好き」
そう言い頬に口付ける滝沢君。

じゃあ両想いだったってことになるのか…?俺は滝沢君に告白して、滝沢君も俺が好きって言ってくれてる。だとしたら両想い以外の何物でもない。

「…と、いう訳で…俺と付き合って?」
そんな感じでぐるぐると思考を巡らせていると滝沢君に告白されてしまった。

「は…え、付き合、う…!?」
思わず歯切れ悪く言ってしまう。
 
「好き同士なんだから、問題ないじゃん」
相変わらずあの余裕の笑顔を浮かべている滝沢君。

いいのかな。そりゃあ好き同士なんだろうけど、男同士な訳だし。それに滝沢君はモテるから他に好きな人が出来る可能性だって沢山ある。
それでも 俺は嬉しい。あのずっと想いを寄せている人が自分を好きだと言ってくれて、その上付き合うという選択肢をくれたんだ。

「ぜっ…是非」
気付けばそう答えていた。断らずにはいられなかった。

そう答えると滝沢君は嬉しそうに微笑んだ。目を細めて優しそうに笑っている。ああ、この笑顔は俺に向けられてるんだ。彼の顔を見てついそう思ってしまう。


「…はあ…」
大きく溜息を吐き、彼は俺の胸板に顔を埋めた。腕を腹の上に起き、二人で机に寝そべる形になっている。

そんな滝沢君の頭に恐る恐る手を伸ばし撫でてみた。癖毛が程良く指に絡む。思った以上にふわふわした髪の感触に、ずっと触っていたくなる。
俺の手が触れるのを許してくれているのか、滝沢君は大人しく寝転んでいる。

撫でるのをやめ、腕を投げ出しぼーっとしていると彼が起き上がった。

「…もう触らないの?」
もっと撫でろ、という意味なのだろうか。分からないが俺をじっと見てそう尋ねてくる。
 
「や、あの、えっと…」
困って苦笑を浮かべていると滝沢君が俺の上から退き起き上がった。

俺もそれにつられるように起き上がる。夕焼けに照らされて教室が真っ赤に染まっていた。
赤色をした教室に居る滝沢君にぼんやり見とれていると、廊下側から足音が聞こえた。

「先生が見回りに来たのかな」
小さく呟いて滝沢君が俺の腕を引き、教室の隅っこにしゃがみ込み二人並んで隠れる。


俺が彼に壁に押し付けられる大勢で、隠れている為とはいえ何だか恥ずかしくなってしまう。目を合わせることが出来ずに顔を隠そうとして俯く。それを遮るかのように滝沢君が耳元へ顔を近付け囁いた。

「…襲っていい?」
耳元で囁かれた為に息がかかる。それにわざわざ身体が反応してびくついてしまう。

「……っ!?」
答えを聞かずに身体を近付けてくる滝沢君の胸板を必死に押し返す。

このままではキスされそうなほど近くて、溜まらず顔を背ける。
すると彼は俺の首筋をべろりと舐め上げたのだ。感じたことのない感覚に身体が勝手に反応している。誰かに見られるかもしれない、という思いで声が出そうになるのをぐっと堪えた。
しかし声は堪えることが出来ても息が上がってしまう。甘い吐息と廊下から聞こえる足音、そして滝沢君の息遣いが聞こえてくる。
 
声を堪えているといつの間にか足音は消え、どうやら見つからずに済んだようだ。しかし彼はその行為をやめずに続けている。俺はやめてほしくて滝沢君の口元へと手を伸ばした。
指先に柔らかいものが触れる。横目で見てみると彼の唇が触れていた。滝沢君は少し驚いたように一瞬だけ目を見開くもクスリと笑んだ。

「…やめて」
言葉を紡ぐ声がつい震えてしまっていた。

「やめないよ」
上目遣いで俺を見据える滝沢君は何だかいつもより格好良く見える。

「…っ何でやめてくれないの?」
じわりと涙が目に浮かび、そんなことを口走ってしまう。

きっと俺の反応を見て楽しんでるんだ。面白いからこんな余裕な笑顔を浮かべていて嫌がることばかりしてくるんだろう。
俺は本気で滝沢君のことが好きで告白したのに。それなのにこれは何なんだろう。恥ずかし過ぎて死んでしまいたい。
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