少女
□空
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空はなぜ青いのだろう?
それはきっと空の先は宇宙だからだろう。
でも宇宙は青くない。真っ黒だ。なら空も黒くなるはず…。
――なぜ?――
分からない。…そういえば宇宙の先はなんだろう?
真っ暗で何も見えない。何も聞こえない。どこまでも続く宇宙。その中に色々な形や大きさの星≠ニ呼ばれる塊がある。大きなものから小さなものまで。星≠ニ呼ばれるものは色々な場所に散らばっている。でもどの星≠煢F宙というとても巨大なものの中にある。そんな宇宙には先があるのだろうか?
誰も行ったことのない宇宙の先…。真っ暗で何も見えない、何も聞こえない。そんな宇宙の先を私は想像してみた…。
…何もない。宇宙のように真っ暗で何も見えないし聞こえない…。しかし宇宙のように星≠ニ呼ばれるものがない。何もないのだ。
それはまさに「無の世界」だ。人間は1人その中に放り込まれたらどうなるのだろう?闇の中を永遠とさ迷い続けるのだろうか?
その光景はまさに今の私の心の中にそっくりな気がしてゾッとした。
私の心は小学校3年の頃になくなった。心をなくす前の私は悩んでいた。今思えばそんなに大した事ではなかった。だがその頃の私にとっては凄く大事な事で…。
一番良い結果になるように、考え、悩み、悩み続け、その度に弱い自分を悔やみ責め…。そんな事を繰り返す度に私の心はボロボロになり、死にたいとまで思うようになった…。
そんな私が出した答えは心をなくすこと≠セった…。心をなくせば傷つく事もなくなる…。この苦しみから解放される…。そうして私は心をなくした。
心をなくす事はそう難しい事ではなかった。私の予想通り、私は苦しみから解放され、傷つく事もなくなった。
しかし、何にも代償というものがあり、苦しみから解放される代わりに、私は喜び、悲しみ、怒り…全ての感情をなくした…。
感情をなくした私は次第に笑えなくなった。いや、笑い方を忘れた…という方が正しいか…。
嬉しいという感情をなくした私が笑っていられるはずもなく、いつしかいつもへらへらしていた私とは真逆の無表情になっていた。
そんな私の変化に気づいた親が心配しないはずもなく、しつこく何かあったのかと聞いてくる親にうんざりし、私は作り笑いをする事にした。最初は顔が引きつり上手く笑えなかったが、次第に自然に笑えるようになり、それを見た親も安心したのかしつこく聞いてくる事もなくなった。
しかし、月日が経つにつれ私は周りの人々が感情のままに表情を変える事が次第に羨ましくなってきた。自分の思いを人に伝えるために言葉や表情にする…。それはとても生き生きとしていて人間らしかった。
それに比べて私はどうだろう?自分が傷つき苦しむ事を恐れ、心を…感情をなくした私はまるで、人形のようだ…。私は周りの人達とは違う。私は人間じゃない。そう実感した時、何かが込み上げてきた。
「人間になりたい。あの人達のように笑いたい」
そんな思いが込み上げてきたのだ。
しかし、嬉しいや面白いという笑うために必要な感情をなくした私が心から笑う事ができる訳もなく、私の周りの人々が笑っている時の私の表情は、本物の笑顔ではなく、作り笑いだった。当然他の表情も全て作ったもので、本物の表情など1つもなかった。
そんな私は、本物の表情を…心を手にするために様々な事に挑戦し努力してみたが、その努力も虚しく、私は本物の表情を手にする事のできないまま小学校を卒業した。
そして私は中学生になった。相変わらず本物の表情はできなかったので、作り笑いをして過ごしていた。
しかし、そんな私にも唯一友達というものができた。別に友達がいなかった訳ではない。ただ、今まで友達と呼んできた人達を私は心から信頼していなかったため、私の中では名ばかりの友達でしかなかった。
でも、今回は違う。本物の友達だ。私が信頼できる唯一の人…。こういう人の事をこの世では「親友」と呼ぶのだろう。
私はこの人といると年に数回、作り笑いではない本物の笑顔をする事ができる事に気づいた。もしかしたら、心が手に入りつつあるのかもしれない。私は少し人間に近づいた気がした。
この話を誰かに見せるなら、きっと私はその人に見せるだろう。
でも、こんな私を知ったらその人が放れて行ってしまう気がして怖い…。いつか話そう…話そうと思いながらもその度にとてつもない恐怖に襲われ、結局言えないままのもう1人の私=Bこれを見たらどう思うだろう…?心の底で何を考えているか分からないもう1人の私を恐れ、放れて行ってしまうのだろうか…?
ふと私は空を見上げた。空はとても澄んでいた…。
もし、これを見ても私を「親友」と呼んでくれるなら、一緒にいてくれるなら、私の心がまた少し手に入るかもしれない…。いつか空のように澄んだ本物の笑顔を手にする事ができるかもしれない…。
もし、私の心が全て手に入った時は、たくさん、たくさん…
―――笑おうね―――