勇気を、下さい

□10
1ページ/4ページ


優しく、暖かな光が頬に当たる。

心地好い鳥の囀りが耳を通る。

いつもと変わらない、否、いつもと違う日常が始まる。

「うし。っ!いてぇ…」

上半身を起こしたことで、腹部に鈍痛が走った。

それは昨日エルザに殴られたところだ。

本当に昨日は災難だった。

「ナツー?早く行かないとエルザにまた殴られるよ?」

「わかってるって。今準備する!」

ベットから降りて、散らかった床から荷物を拾い集める。

実は今日、エルザと共にクエストに出かける。

エルザだけじゃなくハッピーやルーシィも一緒だ。

このことが昨日エルザがオレに頼みたかったことらしい。

らしい、って推測なのはオレが気絶から目を覚ました時にエルザはギルドに居なかったからだ。

エルザだけじゃなく、ルーシィも居なかったから詳しいことはなにも知らない。

「うし、行くか!」

「あいさー!!」

本当は、あまり乗り気じゃ無い。

だけどエルザの頼みごとなんて断れないし…

開け放ったドアの向こうには、何時にも増して澄みきった青空が広がっていた。








「なんだこれ。」

「なんか、お祭りみたいだねー。」

ギルドに群がる人混み。

よく見たら、ワカバやマカオといったギルド員がほぼ全員って言っていいほど集まっていた。

ってか、なんのために集まってんだよ…

耳が拾う音には、ルーシィの初めてのクエストを祝って、とか、ルーシィお見送り隊、なんてのがあった。

確かに妖精の尻尾はお祭り好きで有名だけど、今日は祭りなんかじゃねぇだろ。

いつもはオレも騒ぎに混ざっているところだけど、今日は騒いでる皆に腹が立った。

「ナツー!」

「んあ?…リサーナ?」

呼ばれた方へ向けば、笑顔で駆け寄ってくるリサーナの姿を捉えた。

リサーナの登場によってか、少しだけ苛立ちが薄れる。

だけど、心を渦巻くもやもやは一層強くなった気がする。

「どうしたの、ナツー?しかめっ面して。あ、もしかして、緊張してたりー?」

口の端を吊り上げ、意地悪そうな顔を作るリサーナ。

この顔は子供の頃から変わらない。

「今日はルーシィの大切な日なんだから、しっかりサポートするんだよ?」

「大切な日?」

「そう!もしかしたら、ルーシィの記憶戻るかも知れないでしょ?」

そうだ…

ルーシィが元に戻るかもしれない。

だって一度失った筈の大切な"仲間"で"幼馴染み"のリサーナは、ちゃんと戻ってきたのだから。

体の芯が燃える。疼く。

乗り気じゃなかったクエストが、急に楽しみになってきた。

「…燃えてきた」

ルーシィや、エルザが既にいることは嗅覚や聴覚が教えてくれている。

もうそろそろ出発するだろう。

「ナツ!気をつけて、行ってきてね?ケガしないように!」

「わかってるって。心配し過ぎだっつうの!」

先に歩き出していたエルザとルーシィを追い、ギルドに別れを告げた。

だけど、この時のオレはこの先後悔する出来事が起こることなんてまったく知らない。

自分のことだけ考えて、他は何も頭に無かったんだ。

歯車は噛み合わないまま、回っていく。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ