頂き物

□世界に魔法の杖をふる
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ハッピーがリリーと特訓だからって、泊まり仕度 をしていたから。 それをナツがつまらなさそうに、付き合いの悪く なった青猫を見ていたから。 あたしはずるい女になってしまった。 周りを自分への言い訳に、まるで意図したこと じゃないのよって顔で、ナツを誘ってしまった。

「ああ、どうしよう」

自宅に帰り着くなり頭を抱え、ルーシィは息を吐 き出した。 『そんな暇だって言うなら、明日遊びに行かな い?』 だなんて、平気な顔してなんて事を言ってしまっ たのか。 『おういいぜ』 そう言って簡単にあたしの誘いに乗ってきたナツ に、しても空回りだって分かってるだけの期待を してしまう。 だって、明日は、クリスマスイヴなのだから。 きっとナツは気付きすらしてないだろうし、そも そもクリスマスを二人で過ごす意味だって、わ かってはいないだろう。 明日どんな顔で会えばいいのよ、服は、髪は、い つものあたしがわからない。

「キ、キャ、キャンサー!たすけて!」

「了解エビ 」

戸惑いのまま呼び出したキャンサーに、とりあえ ず明日の服やメイクを相談する。 ああもう、どうすればいいのかしら。

世界に魔法の杖をふる

待ち合わせ時間より早く到着してしまい、ルー シィは冷たくなった両手をこすり合わせた。 なんだか、すごく楽しみにしていたみたいだわ。 ナツと一緒にクリスマスイヴを過ごすだけなの に、ギルドの外というだけで、何故か浮き足立つ ような妙な気持ちになるのだろう。 何度も繰り返した自問に、あえて答えを探さず ルーシィははぁっと指先に息を吹きかけた。

「おはようルーシィ、待ったか?」

ポン、と肩を叩かれ、振り向くと楽しそうに笑う ナツがいた。 いつものマフラーはそのまま、厚手のパーカーに チノパンというラフな格好だ。

「おはよう、ナツも早かったわね。待ち合わせ時 間まだよ」

「ああ、ミラにこういうのは早めに行って待っと くもんだって言われて」

ルーシィ早すぎだろ、とナツは唇を尖らせた。

「そういや今日はクリスマスイヴだったな。せっ かくだしツリーでも見にいくか」

「え、あんたクリスマスイヴ知ってたの?」

「は?そんなん常識だろ」

バカだなールーシィ、と意地悪く笑い、ナツは ルーシィの手をとった。 冷え切った手を包み込むように握られ、ルーシィ は咄嗟に手を引く。 じんわり伝わってくる高い体温が心臓に痛かっ た。

「なんだよ、寒そうにしてっから温めてやってん だろ?」

炎の滅竜魔導士らしい体温に包まれた手に、今度 こそ真っ赤になったルーシィは意思を持って引 く。 だって、そんな事、相手がナツだとしたって、以 前読んだ恋愛小説みたいだ。

「そ、そうだけど…ううん、やっぱいいや」

そうだ、ナツ相手に構えたって仕方ない。 自分なりの決着を出し、腕に込めていた力を抜 く。

「変なやつ。って、ルーシィは元から変だった な」

そう言ってナツはにやりと笑うと、ぐいっと手を 引いた。

「ほら行こうぜ!確か商店街だったよな」

「そうよ、確かソーサラーに魔法で仕掛けがして あるって書いてあったわ」

「なんだそれ?面白そうじゃねぇか!」

ぎゅっと握られた手を引く力が強くなって、ナツ の感情が伝わってくるようだ。 ルーシィは少し俯き、火照った顔を空いている方 の手でこすった。

引っ張られるまま商店街の開けた所に作られた、 イベントスペースに設置されたクリスマスツリー の前に来ると、流石にイヴなだけあって周りは カップルばかりだった。

「普段こいつらどこにいるんだろうな?商店街こ んな混んでたの見たことねぇ…」

「そんなの、クリスマスだからしかたないじゃな い」

「それもそうか」

人ごみをかき分け、綺麗に飾り付けられたツリー の下までなんとかたどり着く。 ツリーの横に小さく立てかけられた案内板には観 覧の注意と、かけられた魔法の説明が添えてあっ た。

「時間帯で変わるみたいだけど、光ったり音が出 るみたいよ」

「へーおもしろいな」

「もうすぐ何かあるんじゃないかしら?」

「じゃあちょっと待ってようぜ」

楽しそうに口角を上げたナツが牙を見せてそう 言った。 握られたままですっかりナツの体温と同化してし まったはずの、自分の手が熱い。 ナツの顔を見ると、胸の奥が苦しい。 逃れるように、ツリーを見上げ頷きだけで返す。 きっと見上げるツリーが目に眩しいのは、ナツの せいだ。 手なんか繋ぐから、嬉しそうに笑うから、あたし はただのチームメイトでいられなくなってしま う。

「ルーシィ、見ろよ」

「え?」

「ツリーのてっぺん、星がまわってる」

「あ、本当だ」

金色の大きな星がゆっくり回って、緩やかに賛美 歌が流れ始めた。 あたし達の周りから次々に歓声があがった。 人が多いとか関係なく、ツリーから流れる歌の美 しさに酔わされるようだった。 ナツと繋がっていたままの手を握ると、同じ強さ でナツが握り返してきた。 それにつられ、逃れたはずのナツの顔を見てし まった。 ナツは何故か戦っている時のような、酷く真面目 な表情であたしを見ている。 どうしたの、と口を開こうとした時、

「好きだ」

ナツはそう言って、ゆっくりあたしから視線を外 した。

「……え…」

「…あ、いや、…」

周りが見えなくなるって、本当にあるんだ。 それか、ナツの赤くなった耳が、周りの人も景色 もボカしてしまったのかもしれない。

「その…好き、だ、って、仲間として?」

よね、と言いかけ、ナツに力なく笑いかける。

「…このタイミングで流石にそれは無いだろ」

「えっと、じゃあ…」

「そういう事だ」

ふいっとそらされた顔が、真っ赤になっていた。 どうしよう。 嬉しい。 頬が熱い。

「あたしも」

擦れるような小さな声で返した言葉に、ナツの手 が熱くなった。
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