頂き物

□初心
1ページ/3ページ

まるで子供のように瞳を輝かせ、顎のしたでゆ るく両手を結んだルーシィは、歌うように言葉 を紡いでいる。 いつもと変わらない夢見がちな顔で語られるそ れは、いつもと違う内容だった。

初心

ルーシィの家にいつものようにハッピーと二人 で不法侵入した後、帰って来た彼女の回し蹴り を受け止め、最終的に紅茶と菓子を出された。 他愛ない雑談の延長で、

「そうそう、最近ね、いい本を読んだの」

と、本好きの彼女らしい会話の流れに持ってい かれたのはよくあることで、その内容を聞くよ り先に、ハッピーが、

「あ、おいら今日はシャルルと晩御飯なんだ。 フェアリーヒルズに行ってくるね」

話が長くなると踏んで、ハッピーは早々に部屋 を辞した。 残されたナツは、別段興味もないが目を輝かせ るルーシィに、くるくる変わる表情を見るのも 面白いかと腰を落ち着けた。 かいつまんでだが、自分の面白いと思ったとこ ろだとか感動したところだとか、ストーリーに そって語られる本の内容は聞き流すにとどめ、 耳触りの良い声に、へーとかホーとか、務めて 適当な相槌を返し、ドライフルーツとナッツの 混じった焼き菓子を頬張る。 合間に、淹れてだいぶ時間が経ったかろうじて 温い紅茶で舌を濡らす。 彼女が話す内容は純愛がどうのこうの、最近流 行っている物語の内容らしいが、正直よくわか らない。

「もぅ!聞いてる?」

「…聞いてる」

生返事ばかりのナツに、聞いてないと判断した ルーシィは眉を寄せた。 プク、と頬を膨らませて精一杯威嚇する彼女 に、おまえ何才だよとツッコミ担当でもないの にツッコミたくなるが、ナツはそれを紅茶ごと 飲み込んだ。

「俺、本とか読まねえもん」

わざとらしくため息をつき、ナツは空になった カップをローテーブルに置いた。

「だから内容話してるんじゃない。わかりにく かった?」

「そうじゃねぇけど、よくわかんねぇんだよ。 純愛とか」

どうせなら悪者倒すやつとか、いつも読んでる とかいう冒険とかなら、おもしろさに共感もで きた。 そう言ったナツに、ルーシィはあからさまに肩 を落として冷めた紅茶の入ったティーポットを 手に取るとソファーから立ち上がった。

「まぁ、ナツだしね」

中を軽く濯ぎ、新しい紅茶を淹れ直して戻って 来たルーシィはそう言ってナツをチラリと見る と、

「あんた純愛とかわかってなさそうだもんね」

喧嘩と食べることしか興味なさそう、なんて 言って、ルーシィはバナナチップに指を伸ばし た。

「なんだよそれ」

チップを取るより先に、ナツはほっそりした指 を自分の右手に包み込む。

「ルーシィだって、わかってねぇだろ」

「え?」

「だってお前、…」

俺がどんな気持ちで見てるかわかんねぇだろ。 言いかけた言葉を引っ込め、ナツは苦くなった 唾液を飲み込む。

「色気ねぇもん」

「あんた、たいがい失礼ね」

掴んでいた手をパッと離し、新しい紅茶を自分 のカップに注ぐ。 熱い紅茶を流し込み、やけに渇いた喉を潤しナ ツは立ち上がった。

「じゃあ帰るわ」

「そう、今日はやけに早いじゃない」

いつもは何かにつけ遅くまで居座るか、泊まろ うとするのに、とルーシィはマフラーを巻き直 して帰り支度を始めた彼を見ていると、

「ハッピー迎えに行かねぇといけねぇしな」

窓に手をかけ、ナツはそう言ってルーシィに振 り返った。

「ああ、ウェンディとシャルルのとこ行ってる んだっけ…てか、ドア使いなさいよ」

「ん。階段面倒くせぇ!」

うっかり大家のおばちゃんに会うのも嫌だし な。そう言うとナツはいつものように飛び降り てしまった。 身体能力の高いナツのことだから心配はない が、せっかくドアがあるのだから使えばいいの に、ルーシィは呆れを含んだ息を吐き出すと、 窓の下を見下ろすように顔を出す。

「じゃあ、明日ね」

「おう」

ナツが挙げかけた手を握り、妙に真剣な顔で ルーシィを見上げた。

「色気なくて変なやつだけど、恋がしたいんな ら俺が相手役やってやんよ」

いつもより、固い声でそう言ったナツは、じゃ あな、と言って夜のマグノリアに駆け込んだ。 溶け込むように小さくなって行く後ろ姿を声も なく見送ったあと、静かに窓を閉じ、ベッドに トスと腰をおろしたルーシィは小さくもがくよ うな音が喉の奥から漏れ出るのをふさいだ。

「…思い付きだったら…たち悪いわよ……」

告白としか捉えられない先程の言葉と一緒に、 真剣な顔をしていたナツを思い出し、心臓が壊 れたんじゃないかってくらい強く動く。 ルーシィは細く呼吸をし、落ち着かない胸を抑 えた。

終わり
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ