勇気を、下さい

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その沈黙を破ったのは、沈黙を作り出したバルゴだった。

「ナツ様。」

「な、なんだよ…。」

急なことに驚いて、少しかすれた声になった気もするが、しょうがない。

今度は逃げないように、気合を入れて、バルゴの視線を受け入れる。

「ナツ様は、姫のことをどう思いですか?」

「…はぁ?!」

予想の斜め上を行く言葉に、顔が熱くなるのを感じる。

熱い、なんていつもは感じるはずないのに、その感覚に更に戸惑いは増す。

ルーシィのことを、どう思っているか、なんて。

そんなこと…

「…わかんねぇ。」

今まで考えたことのない質問に、口から勝手に言葉が零れる。

バルゴは、その答えに表情を変えなかった。

むしろ、オレの答えがわかっていたかのようだった。

「本当に、ですか?今まで一度もルーシィ様のことを考えたことがないのですか?」

追い打ちをかけるかのように紡がれる質問にオレは口を閉ざす。

だって、だって。

イグニールは父ちゃんで。
ハッピーは相棒で。
ギルドの皆は家族で。

じゃあ、ルーシィも家族じゃねぇか。

ーーーー本当に?

そこまで考えて、大袈裟に頭を振り無理矢理思考を止めた。

それ以上考えてしまったら、気づいてしまったら、もう二度と”自分”には戻れない気がして。

得体の知れない気持ちが、思いが、ただ怖かった。

だからオレは結局なにも答えられず、黙っているしかできなかった。

「ナツ様。私達星霊一同から、ナツ様にお伝えしたいことがあります。」

「オレに伝えたいこと…?」

「はい。他の誰でもない、ナツ様に。」

バルゴはさっきの質問なんて無かったかのように、話を続ける。

追求されずにすんだのはすごく助かったが、星霊がなにをオレに伝えたいのか、全く見当がつかなかった。

「ナツ様。私達星霊は今の主である、姫のことが大好きなのです。姫のことを尊敬し、尊重し、敬愛しております。それは姫が私達のことを忘れていても変わりはないのです。」

「…ルーシィが、お前らのことを忘れてても、いいって言うのか?」

バルゴの言葉が胸に刺さる。

心臓が痛いくらいに早く鼓動を刻んでいる。

首の後ろを伝う冷や汗が、妙に鬱陶しかった。

「はい。だって、例え姫が私達のことを忘れていても、私達は姫のことをちゃんと覚えております。ただもう一度関係をやり直すだけ。大好きな姫の為ならば私達は何度も姫と関係を築いて行きます。記憶を失っていても、姫は私達の愛した姫には変わりないのですから。」

「記憶が無くても、ルーシィはルーシィのままだって言うのか…?」

「はい。」

一瞬で頭が真っ白になってしまうほど、その言葉は衝撃的だった。
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