短編小説
□It's raining cats and dogs
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あの子が帰ってきた。
今までずっと、死んでいたと思われていた彼女が。
実際はもうひとつの世界、エドラスに飛ばされていただけで、無事エドラスの問題を解決したあと、あたしたちと一緒に帰ってきたのだ。
ミラさんとエルフマンは涙を流して彼女の帰還を喜んでいたし、他のみんなも見るからに嬉しそうだった。
もちろん、ナツも。
「バニー、おまえこんなところでなにやってんだよ。」
「ジュビアはルーシィがグレイ様に近づいてないので、満足ですけど。」
手元のグラスに向けていた視線をあげると、不機嫌そうなガジルと、無表情のジュビアが立っていた。
それから二人は何も言わず、テーブルを挟んであたしの正面に座った。
「ガジルとジュビアこそ、抜け出してよかったの?」
現在ギルドでは、あの子が帰ってきたお祝いとしてお祭り騒ぎをしている最中。
まだ入って日が浅い新人のあたしは、なんだかあの輪に入れなくてギルドの隅で休んでいたとこだったけど。
「俺はあの女のことは知らねぇからな。酒飲むには落ち着いてた方が好きなんだよ。」
「ジュビアは、たまたまここから見えるグレイ様が一番かっこよく見えるから来ただけ。」
「そっか。」
あたしの勘違いかもしれないけど、もしかしたら二人は少し沈んでいたあたしの気持ちを察知して、来てくれたのかもしれない。
そんな二人の不器用な優しさが、とても嬉しかった。
「…バニー、あれいいのかよ?」
ガジルはなんでもないように、お酒の入ったジョッキを見つめてたけど、あたしにはガジルの言う"あれ"の意味がわかっていた。
それはきっと、ナツとあの子のこと。
「うん。いいの。」
だってあれは、元々あったモノだもの。
あれが本来の姿。あれが正しい姿。
あたしのは…偽りだっただけ。
そんなことはわかっていたのに、甘えていたのは、あたし。
夢を見ていたのは、あたし。
「…ルーシィ。」
「ごめん、なんか暗い雰囲気になっちゃったよね。」
「いえ、そんなことは…」
ジュビアは優しいからあたしの心配をしてくれているんだね。
"大丈夫だよ"の意味を込めて、ジュビアに精一杯の笑顔を送る。
うまく笑えていたかわからないけど、ジュビアは微笑み返してくれた。
「あたしね、本当は羨ましいんだ。リサーナのこと。」
ポツリともらした本音に、ジュビアとガジルは二人揃って眉を寄せた。
その仕草があまりにも似すぎていて、思わず顔が緩む。
あぁ、あたし、笑えてる。
「あたしは小さい頃からずっとお屋敷にいたから、友達と呼べる人はもちろん、ナツとリサーナみたいに幼馴染みと呼べる人もいなかった。だからね、わからないの。幼馴染みの絆がどれほど強くて、どれほど大切なのか、なんて。だから…」
二人の邪魔なんかできないよ、と言う言葉は声にならず喉に張り付いた。
その言葉を言ってしまえば、あたしは認めることになってしまうから。
今ならまだ、引き返せるかもしれないから。
それからあたしはもちろん、ガジルもジュビアも口を開くことはなくて沈黙が訪れる。
お祭り騒ぎをしているギルドの中では、ここだけ場違いな気がした。