寄り道 二本目
□トライアングラー ―プロローグ―
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バスの窓の向こうには、水平線に半分沈んだ太陽が見える。
アスランはぼんやりとそんな事を考えながら、頭をガラスに預けていた。
いつもは参考書を片手に、降りる停留所まで文章を追っているだけだったのだが、今日は何故か外を見ていた。
それなりに楽しく、それなりに順調な人生。
志望した大学の判定はAを取っている。
ガラスに映る顔の造作のせいか、告白される事は多々あれど。
ただ平凡な人生を、高校生男子として過ごしてきた。
―…今、この瞬間まで。
あと二つ程過ぎたら降りる。
そう気付いて、頭を上げようとした―…その時。
堤防に腰かける、鮮烈な金の輝きを―…見た。
反射的にボタンを押す。
ピンポン
『次、止まります』
バスが止まるのと同時に席から飛び出し、電子マネーカードをかざすとほぼ同時にバスから降りた。
発車しまーすと気の抜けた運転手の声を背中に聞きながら、来た方へと走り出す。
暫く走ると、やはりあの堤防に、金髪の女性がちょこんと体育座りをしていた。
顔を真っ直ぐに前に向けて、ただ座っていた。
それだけなのに、何故かアスランにはその人がとても美しく綺麗に見えた。
どうしてかは分からない。
普通に見て彼女は美人である事と、夕日の光とそれを反射する金の髪が黄金だったから、まるでエジプトの王族みたいだと錯覚したからかもしれない。
そう、彼女は美しいと同時に、どこか近寄り難い空気を醸し出していた。
大切な思い出に浸っているように見える。
自分だけの世界で、ただひたすらに自分の中の記憶を探っている様に。
目は瞑っていない。
その瞳を、真っ正面から見たいと思った。
どんな形の瞳だろう。
どんな色の瞳だろう。
小学生の様な欲求が体を駆け巡る。
と、
彼女がこちらに、目線を…移した。
太陽のような月のような、琥珀の瞳がアスランを映す。
ただそれだけだったのに、一瞬にしてアスランの全身に熱が回った。
しかし彼女はまた正面に顔を戻してしまう。
それがとてつもなく残念で、もう一度その琥珀を見たいと願う。
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