番外編
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「うわぁ…!」
眼前に広がる絶景に、口から自然と感嘆の声がこぼれ落ちる。
辺り一面に植えられた何十本という桜の木が満開に咲き乱れる様は圧巻の極みだ。
「フッフッフッ!気に入ったか?」
「ええ、もちろん!」
かけられた言葉に振り向いてそう答えれば、私をこの場所に連れて――拉致して――きたドフラミンゴが相変わらずの笑顔で大きめの切り株に腰かけていた。
どうでもいいことだが、あの大柄を通り越した男が座って小さく見えないとは、あの切り株はどれだけ大きいのだろうか。
「前に花見がしてェって言ってたろ」
ニンマリと、ドフラミンゴにしては珍しく悪意の少なそうな笑い方で言ってのけた姿は、その自慢のコートのせいか何だか景色に同化している。
――いやいや。それはおかしいでしょ。
裏社会にこれでもかというほど幅をきかせる男と、美しく咲く桜のどこが“似合い”なものか。
浮かんだ考えを否定するようにフルフルと首を振った私が面白かったのか、ドフラミンゴは笑みを深めて立ち上がった。
「気がすんだらコッチに来な」
「え、何で?」
「フフフ!花見といやァ酒と食い物だろ?」
用意してあるに決まってるじゃねえか。と楽しげに体を揺らして笑うドフラミンゴは、やはりどう見てもドフラミンゴだ。
凶悪で外道でサディスト。
けれど、そんな自他共に認めるロクでもない男が名無しさんに向ける顔は、妙に柔らかい。
それが、ドフラミンゴが自分に向ける好意故だと何となく気付いている名無しさんは、厄介な男だとわかっていても突き放すことが出来ないでいる。
海軍のトップであるセンゴクさんから直々に「ドフラミンゴを甘やかすな」と注意を受けるくらいだから、私も相当、流されているらしいが、今更だ。
ドフラミンゴの望む関係には程遠いが、名無しさんにとっては“それなり”に仲の良い相手である。
「ホント、私も変わったね…」
残虐非道と有名な男と“仲良し”だなんて、少し前ならあり得なかった。
「あ……」
そこまで考えて、以前、それこそ私がまだ自分の世界で学生をしていた頃に聞いた話を思い出した。
「ははっ!」
よみがえった記憶に、やっぱりそうじゃないかと笑いが込み上げる。
何の前触れもなく突然笑い出した私に驚いたのか、ドフラミンゴがどうしたと訪ねてきたが、それどころじゃない。
「い、いやあ…。ふふ…!ドフラミンゴと桜って、意外とお似合いだなーって思って」
「あ?」
いまいち脈絡がない私の言葉に、ドフラミンゴが怪訝そうに眉を寄せる。
けれど、そんなドフラミンゴに構わずひとしきり笑って満足した名無しさんは、ようやく正面からサングラスの奥に隠れた瞳を見返した。
「だってそうでしょ?」
芝居がかった動きで両手を広げ、名無しさんはにいぃっと“海賊”らしい笑みを浮かべた。
桜の下には死体が埋まる
敗者を足蹴にし、積み重ねた山の上に立つ貴方に。
とても似合いの花でしょう?
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桜の季節が近づいて来たということで花見の話です。
が、何故かオチが……!
「桜の下には〜」というのは、桜と聞くと思い出してしまうフレーズです。
始めは、死体の上に咲く桜=ヒロインちゃんにする予定だったんです。
でもよく考えてみたら、この子って別に桜というほど華やかな見た目でもなければ、散っていく刹那的な儚さもないんでね。
だったら色的にドフラミンゴで良いか!という感じで、お相手が決まりました。
本当はもう少し柔らかい雰囲気出したかったんですが、相変わらず甘さの足りない話でしたね…。
精進します。
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