番外編

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長編のネタバレありですが、設定に書いたくらいの内容しかでてこないです



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「そういやァ、お前ら名無しさんちゃんが怒ったところって見たことあるか?」


海軍本部内にある大円卓の間。

七武海招集の際に使用されるその部屋で、ぐだぐだと一向に進まない――むしろ始まりさえしない――会議の存在を無視して青キジことクザンが口にした一言。

その内容に、もはや自分勝手に自由時間を堪能していた出席者、鷹の目ミホークとドンキホーテ・ドフラミンゴは、何を下らないことをとでも言うような視線をクザンに向けた。


「そりゃァ青キジ。名無しさんだって海賊だぜ?コケにされたら怒りもするだろ」
「いやだから。実際に見たことあるかって話よ」


退屈だったのか何なのか。珍しくまともに返答したドフラミンゴに、クザンはひらひらと手を振って見せた。


王下七武海が一角。剽悍羅刹・名無しさん。


彼女が加入してからというもの、他の七武海――特にこの二人――の招集に対する軍法会議の出席率が高くなっているのだが、今回の会議では名無しさんの定位置は空席となっている。

とはいえ決してサボりというわけではなく、何でも海軍元帥であるセンゴク直々に用事を頼まれたとかで出張っているのだという。

それでも一応、電伝虫で欠席連絡をしてくるあたり、名無しさんらしいといえるだろう。


「こう言っちゃなんだけど、あの子って“普通”じゃない」


出欠遅刻の連絡はもちろん、顔を合わせたら挨拶するし、滅多なことでは口調が荒れることもない。
部屋にゴキブリが出たと半狂乱になって、近くを通りかかったサカズキに泣きついたという話は半ば伝説と化している程だ。


もちろん、そうは言っても“七武海”だ。
制裁だのお礼返しだの言い方は色々あるが、いくら“平和主義”の名無しさんとて騒ぎを起こさないわけではない。

けれどそのほとんどが、自己防衛や人命守護を理由としている。

敵に加える攻撃だって必要最小限であり、あくまでも相手を“殺す”のではなく“倒す”ことに目的を置いている。


「キレて大暴れ。とかないのかね、あの子は」
「ふむ」
「言われてみりゃァ、確かにな」


掲げる正義のとおり、だらーっとイスの背もたれに体を預けたクザンの言葉に頷いて、他の二人もまた記憶を辿る。

ミホークにしろドフラミンゴにしろ、名無しさんを怒らせたことなど多々あるが、マジ切れとなると話は別だ。


「名無しさんのことだ。常とさして変わらんのではないか?」
「イヤァ、案外泣いちまうかもしれないぜ?」


そう言ったドフラミンゴの言葉に、クザンはなるほどと心の中で頷いた。


名無しさんは七武海どころか海賊という肩書さえも似合わないような、比較的平凡な感性の持ち主だ。

まあ元々、海軍側の手違いというか不正というかで間違って手配してしまったのだから、海賊らしさがなくて当然だろう。

大っぴらに、海賊である私を信用しないで、と宣言する様子に、あのサカズキまで気を許している現状だ。

今となっては何故か海軍の書類業務の一部まで任されている。
これでもし、本当に裏切られたら海軍にとって大打撃だが、たいして心配していないあたり、自分も大分ほだされている。

――と、話が逸れたが、とにかくだ。

下手をれば女海兵よりよっぽど“女の子”である名無しさんなら、感情の高ぶりで泣いてしまっても可笑しくはないだろう。


――何だかんだ言いつつ、ちゃんと見てるじゃないの。


つまり、それだけ“本気”ということなのだろう。
鷹の目だって、その態度を見ていれば一目瞭然だ。


――天下の七武海を二人も落とすたァ、名無しさんちゃんもやるねェ。


ここにはいない、自分と比べて遥かに小柄な彼女の姿を思い浮かべ、クザンの口角は自然と上がっていったのだった。


脳裏に浮かぶ君はいつも柔らかく微笑んでいて


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「は?何だって?」
『いえ、ですから島がですね』
「島一つ吹っ飛んだって、冗談でしょ」
『い、いいえ!事実です、大将!剽悍羅刹が暴れまして……』
「え、嘘。サエちゃんが?何で?」
『は!本人いわく、「ストレスが溜まってるところに睡眠を妨害されてキレた」…と』
「あらー…」
「ほう、意外だな」
「フッフッフッ!こりゃ、サエのことは怒らせない方が良さそうだな」


そんな彼女は怒らせると怖いらしい


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長編の進行速度をまるっきり無視してフライングしました。

ヒロインが七武海になった後の話です。

ちょっぴり青キジ視点ですね。


普段はおとなしいというか、真面目というか…なヒロインも、やっぱり海賊なのでね。

暴れるときは暴れます。
むしろ、七武海になってからのほうが暴れているのではないかと。

なにぶん、七武海は海賊の抑止力ですから、あまりナメられてはいけないのです。
少なくとも、ヒロインちゃんはそう考えています。

そして普段から政府や海軍に協力的で、どちらかというと他の“海のクズ”たちを抑える役目を担う彼女ですので忘れられがちですが、強いんです。

三大勢力の一角ですからね。
強いんですよ。

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