企画

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もしも私が、ドフラミンゴのことを一言で表さなければいけない状況になったとしたら。

きっと少しも迷うことなく答えるだろう。

“貪欲”

――と。


===


平和で平凡。
目立った産業もなく、島の中だけで衣食住が完結しているような面白みに欠ける島。

そこに生まれ、育って来たサエもやはり、島と同じように至って平凡な人生を送ってきた。
ただし、一つだけ。

自分でも異常だと思える肩書きが、サエにはあった。

それは――。


「フッフッフ!どうしたサエ、そんな顔して」
「……さあ?」


独特な笑い声に思考を遮られ、正面に立つ男を見上げる。
立つ、と言っても、無駄に背の高いこの男が普通に立ったら、サエの視線は男の腰辺りになってしまう。

だから、男はサエに視線を合わせるようにその場でしゃがみ込んで、それでも尚高い位置から壁際に追い詰めたサエに覆いかぶさっていた。


「フフフッ!相変わらずツレねェな、サエちゃん」


言葉の内容とは裏腹に、酷く楽しげに笑うこの男の名は、ドフラミンゴ。


ドンキホーテ・ドフラミンゴ。
三大勢力の一角を担う王下七武海。
その称号を持つ、元3億4,000万ベリーの凶悪な海賊。


そんな自他共に認めるアブナイ男が、何故サエのような平凡な女の家にまで押しかけてきているのかと言えば、答えは簡単。

サエがドフラミンゴの“女”だからだ。


「ご機嫌ナナメみてェだな」


さて、どうしたもんか。
わざとらしく両手を上げ宙を仰いでみせる姿に、もともと短くなっていた導火線が燃え尽きた。


「貴方…!まさか何も覚えてないとか言わないでしょうね!?」


元々、ドフラミンゴという男は気まぐれだ。欲しいものは手に入れるが、興味がなくなったらすぐに海にでも捨ててしまう。

戦闘力など皆無のサエにとって、彼の船に乗れない以上は島でおとなしくドフラミンゴの来訪を待つしか方法はない。

けれど先にも述べたように、ドフラミンゴは気まぐれだ。

どこにでもいるような、至極普通のサエにいつ飽きるか。
次に来るのはいつか。そもそも、また来るのかどうか。

そんな基本的なことすらわからず、ただただ“スマイル”のマークを掲げた海賊船がやって来るのを待つ日々。

そんな不確かな毎日が怖くて、前回ドフラミンゴがこの島から出港するとき、サエは一つの“ワガママ”を言ったのだ。


「ああ、覚えてるぜ?“会いに来なくても良いから、声だけは聞きたい”だろ?」


ニヤニヤ笑って、天井を仰いでいた顔をこちらに近づける。
色の濃いサングラスのせいで表情をうかがい知ることは出来ないが、その瞳は確実に愉快そうに光っていることだろう。


「覚えてるなら何で…っ」
「約束を破ったとき、お前がどんな顔をするのか見たかった」


思わず噛みつくように叫んでみるも、相手は天下の七武海だ。
動揺などするはずもない。

機嫌を直せと抱きしめられ、ひと月ぶりというあまりに久しぶりすぎるその感覚につい、ほだされそうになる。

いや、でも。


「抱きしめれば良いってもんじゃないんだから!」


流されてなるものかと、全身全霊で両手足をバタつかせる。
その間も、思いつく限りの悪態をつく。

けれど、所詮は男と女。それ以前に海賊と一般人だ。
あっという間に動きを封じられたかと思えば、必死になって罵声を吐きだしていた口をその大きな手で塞がれてしまった。


「お前の拗ねた顔も嫌いじゃねェが、おれが聞きたいのはそんなセリフじゃねェ」


わかってンだろ?
ズイッと先ほどまでよりも近づいた顔に浮かぶ意地の悪い笑みに、どくり、と胸がなったのが良く分かった。

それがまた悔しくて仕方ないのだけれど、相手はあのドフラミンゴなのだ。
敵う筈がないことくらい、初めから分かっている。


「……貴方は勝手だわ」
「そりゃそうさ!おれは海賊だ、欲しいと思ったモンは何だって手に入れてやる。だからサエ!諦めて正解を言ってみな!」


自身に満ち満ちた顔。声。態度。
どれを取ってみても、抵抗なんて出来る訳がない。


――本当に、勝手なヒト。


けれど、本当にどうしようもないのは、こんな男に惚れてしまったサエの方だろう。

とんでもない男に捕まったものだと、一つ大きなため息をつき、サエはドフラミンゴの体に腕を回した。


「おかえりなさい、ドフラミンゴ」


その言葉に満足気に笑ったドフラミンゴは、自分の名を紡いだサエの唇に噛みついた。




ただ、サエの拗ねた顔を見たいがために。

心底惚れた唯一の女に触れることを、それどころか顔を見ることも声を聞くことも堪えていたドフラミンゴにとって、ひと月ぶりのサエのそれは酷く甘く柔らかで。


もっともっとと逸る自分に呆れつつ、まァ我慢する必要もねェかと自己完結して、ドフラミンゴは自身より遥かに小さなサエの体を強く抱きしめた。


貪欲な貴方に何もかも差し出して


===

うん。甘くないですよね。
自覚はしてます、はい。
頑張ったんですけど、これくらいが限界点でした。

最後のところでドフラ視点を入れて、無理やり甘め…?に持っていきました。
リクエストではヒロインや設定の指定がありませんでしたので、連載とは全くの別ヒロインでやらせていただきました。

闘えない女の子っていうのは、我ながら珍しい設定です。
大抵は強いんでね、拙宅のヒロインは。

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