企画

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シャボンディ諸島付近にある三日月型の島・マリンフォード。
海軍本部が置かれた世界平和の象徴ともいえる場所。

その本部内には、その時々の七武海が招集を受けた際に滞在するための部屋が設置されている。

広さ、日当たり、食事など、充分すぎるものが用意され、これでもかというほど内装にも力が入っている。


しかしサエが宿泊するのは、そんな“特別仕様”の部屋ではない。

まず違うのが部屋の位置で、建物の中でも外れに位置する“七武海の間”と違い、やや中心部に造られている。

次に、その内装だ。
飾り気のない大きな扉を開くと、応接用の背の低いテーブルとソファーが置かれ、その奥には重厚感のある執務机が置かれた中々に広い部屋がある。

更にその部屋に隣接して簡易キッチンとバス・トイレが設置され、ベッドルームには大きなクローゼットやチェスト、化粧台と並ぶように、壁に埋め込まれた巨大な金庫がある。


ここまで聞いて何か変だと思わない人間が、果たして海軍関係者にどれほどいるだろうか。

あろうことかサエが普段から使っている部屋は、海軍最大戦力と謳われる三大将の間と全く同じ造りをしているのだ。

故にその部屋は“サエの間”と呼ばれ、非常に不思議なことに常習的に処理しきれなかった大量の書類業務が運び込まれていた。


「――で?」


しかしここ最近は奇跡的に――あのサボり大将がおとなしく仕事をしているため――綺麗に片づけられていた部屋に、見慣れない異物が我が物顔で数人掛けの大きく長いソファーに居座っていた。


「異物はねぇだろ」
「……心を読まないでくれる?」


はあ…。と大きなため息を吐いて、サエは自分が少し席を外した隙に勝手に入り込んだローが脱ぎ捨てたらしい黒いコートを手に取った。


「コーヒーか紅茶か緑茶」
「何だかんだ言って、茶は出るのか」
「じゃあ水でも出してあげましょうか」


じろり、と黒コートを壁に掛けながら軽く睨みつけると、ローは僅かに口角を上げ軽く手を振って見せた。


「勘弁しろ。……コーヒー」
「はいはい」


返事がなかったら本当に水を出してやろうかと思ったのだが、一応リクエストはあったので、了承してから簡易キッチンへと移動する。

私自身が紅茶派のため普段は滅多に淹れることはないが、ローとの付き合いはそれなりに長い。
ローが好むのが砂糖もミルクも入れない、かなり濃く淹れたブラックコーヒーであることくらい心得ている。

手早くコーヒーを準備し、いらないとは思うが茶菓子としてクッキーを用意する。


「……まったく」


本来なら、勝手にやってきた男に茶など出す必要はない。
事実、これがローではなくドフラミンゴなら放置するし、どこぞの大将なら速攻で海楼石の手錠を嵌めて部屋から放り出している。

それでもこうして手を動かしてしまうのは、ローの置かれた立場が分かっているからだ。

七武海の称号を手にしたとはいえ、海賊が大勢の海兵の中に入って伸び伸びできるワケがない。
常に気を張った状態でいれば誰だって疲れるし、何よりローは他の七武海に比べ若い。

年齢的に私と同年代である彼が、この空間に慣れるにはまだ時間がかかるだろう。
それこそ何だかんだで妙に信頼されてしまっている私に比べれば、七武海になって日の浅いローにとっては、まさに“針のムシロ”と言ったところだ。

そんな状態にある男が、わざわざ用意された“七武海の間”から離れたこの部屋にまで来たというなら、その無言の訴えを聞いてあげるくらいはするべきだろう。

そんなことを考えながら完成したコーヒーセットを手に戻れば、ローはトレードマークともいうべき、もこもこした帽子を外して、ぼうっと壁に飾った絵を眺めていた。



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