誤解から始まる海賊稼業
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マスターの宝物である古時計を壊した馬鹿な海賊相手にぶちギレたのは、そんなに前のことではない。
沸き上がる怒りに任せて暴れまくったそのときに、発覚したことがある。
それは、どうやら私は“この世界”の人間より格段に身体能力が高いらしい、ということだ。
放つ打撃全てが大柄な男を吹き飛ばす威力を持ち、受けた攻撃全てが大した痛みを伴うことなく肌によって阻まれ、相手の動き全てがひどくスローに見えた。
今までどうして気付かなかったのか私自身不思議に思う程、“ここ”での私のポテンシャルはずば抜けていたらしい。
そんな訳であっという間に海賊どもを叩き出したサエは、何故か遅れて到着した海軍に新手の海賊として認識され、追い掛け回されるという、非常に理不尽なめにあった。
何でだ!?と叫びながらとりあえず酒場から逃走し、勝手知ったる町の中を走り回って追手を撒いた後に“リディア”に戻ったサエを待っていたのは、とんでもない現実だった。
「賞金首っ!?私がですか…っ!?」
「う〜ん。私も信じられないんだけど、事実なんだよねぇ、おぉい。」
「そんな……!」
――絶句。
まさにその一言に尽きる。
海賊退治をしただけなのに、何だこの仕打ちは。
一応、マスターや店の常連さんが必死で否定してくれたらしいが、どうやらあまり効果はなかったらしい。
この短時間でどうやって発行したのか、マスターがカウンターに置いた手配書には紛れもない「いらっしゃいませ〜」と笑っている私の顔写真と、サエという名前。
さらに、1,500万ベリーという中々高額な懸賞金が印字されている。
「私みたいな小娘に1,500万ベリーって…!そんなお金あるなら他に使いましょうよっ!」
「おぉい。私に怒らないでよぉ」
まさに弱った、という表情のマスター相手に憤りをぶつけ、それでも収まらずカウンター突っ伏した。
私がいるこの春島は“偉大なる航路”にある。
つまり、この島はあらゆるレベルの海賊が訪れるのだ。
そんな場所に、誤解とはいえ1,500万ベリーの賞金首がいたら問題が起きない訳がない。
仲間にしようと勧誘されるならまだ良い。
懸賞金目当てで命を狙われること何てざらにある筈だ。
もしそうなってしまったら……。
私は確実にマスターを巻き込んでしまうだろうし、マスターを守りきれるとも思えない。
だったら、と頭に浮かんできた案に驚き、しかし一番妥当だと思えるだけに、これしかないと決心は一瞬で固まってしまった。
「マスター、私……」
「ぅんん?」
「…っ…」
伝えようとした言葉が、喉を通る前に迷子になってしまう。
一年間お世話になったマスターに対して、こんな宣言をしても良いのか。
迷い、それでも自分を奮い立たせる。
「私、海賊になるよ」
一瞬でした決意は茨の道を指し示した