誤解から始まる海賊稼業
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つい先日着いたばかりの秋島で子供にアイスをぶつけられた、という事件がまだ記憶に新しい今日この頃。
件の島に未だ滞在していたサエは、自身の船ではなく街の宿屋に宿泊していた。
本来、見張りを残さず船を空けるのは好ましくないのだが、いかんせんサエは単身で海賊をやっている身だ。
当然そんな人員がいるわけがない。
かと言って、せっかくの島で“外泊しない”という選択肢は選べる筈もない。
そんなわけで、船の倉庫に強固な鍵が付いていること、船自体がやや珍しい形をしているためにコツを知らなければ動かせないということを理由に、サエは中心街にある宿屋の一室に身を寄せていた。
「ん〜。良い夜ねえ」
満月よりやや欠けた月に照らされた道は比較的明るく、そよそよと心地良い風が吹いている。
今日も今日とて思う存分ブラブラと島を満喫し適当な酒場で夕食を済ませた私は、腹ごなしを兼ねて夜道をゆったり散歩していた。
と、そのとき。
――カタン。
「ん?」
不意に聞こえてきた小さな物音に、進めていた歩みを止める。
こちらに来て常人より鋭くなった聴覚は、意識して音を聞こうとすれば更にその感覚を研ぎ澄ませることが出来る。
今回も、集中して耳を澄ませれば鼓膜を揺らす微かな息づかい。
「あ」
音を頼りに辺りを見回し見つけたのは、薄茶色の小さな生き物だった。
建物と建物の間に隠れるようにしながら小刻みに震えているソレは、ハッキリ言ってみすぼらしい。
毛並みは悪く、泥やら何やらで汚れているために固まり、ロクに餌を食べていないのか体毛の張り付いた体は骨が浮き出て見える。
――けれど……。
「あー…」
頬をかき、声を漏らす。
片手で抱えられる程の大きさ。
ぬいぐるみのようなクリクリした目。
絶え間なくブルブル震える体。
何と言うか、すごい、可愛い。
異様なまでに庇護欲をそそられる姿を見て、私は始める前から試合放棄の白旗を上げたのだった。
イキモノは拾ったら負けだと言ったのは誰だったか
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はい。話がちょっと動きます。
ちなみに「イキモノは拾ったら負け」と言ったのは、私(管理人)の母です。
金魚すくいの金魚でさえ飼うことを嫌がられた記憶がありますね。