誤解から始まる海賊稼業

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使い込まれた床板。
簡素なテーブルと、同じく簡素な椅子が一脚。
木製で少し小さめのベッド。

たったそれだけの至って平凡な宿屋の一室で、サエは疲れたように息をついた。


「――つまり、貴方がその子のご主人様ってことでいいのね?」
「ああ」


椅子に腰かけたローの膝で丸まるエポロ――もとい、ベポを指差しながら確認すれば、ローは当然だとばかりに頷いた。

そんな“片時も離れたくない”と言わんばかりに仲の良い二人を見て、どうして?という疑問が生まれるのは当然だろう。


どうしてベポは、この“北の海”から遠く離れた“偉大なる航路”にいたのか。
その問いかけに対するローの返答をまとめると、つまりは次のようなことになるらしい。


ベポは“北の海”でも、この付近の島にしか生息しない珍しい種類のシロクマで、成長すれば人語さえ操る。
故に“偉大なる航路”の貴族やなんかに売り払うと非常に高額の値が付く。そんなわけで、ベポの仲間は乱獲に合い、数は激減してしまった。

かくいうベポも、ローが目を離した隙に拐われてしまい、売りに売られて私がいたあの島にやってきたらしい。


そこまで聞いて、じゃあ何で一匹でいたのかと新しい疑問も浮かんだが、そこはローに聞いたところで分かる筈もない。

おそらく、ベポはベポなりにご主人様であるローの元に戻ろうと必死だったのだろう。


「本当に良い子ね、キミは」


手を伸ばしベポの頭を撫でる。
そうすれば嬉しそうに擦り寄ってくる様が可愛らしく、自然と顔が綻んでしまう。

そんなふうに和んでいると不意に視線を感じ、顔を上げれば意外と近いところにローの顔があって――彼の膝に乗ったベポを撫でていたから当然ではあるのだが――かなり驚いた。


「…っくりした」
「自分で近寄って来たんだろうが」
「いや、そうなんだけど……」


ベポしか見ていなかった、とはさすがに言いづらくて語尾が小さくなる。
だが、外科医というだけあり頭の良いローには、私の濁した言葉の先など予測するのは簡単だったらしい。


「おれよりベポ、ってか?」
「う……」


可笑しそうに唇を歪めて笑ったローは私の情けない反応に満足したのか、膝でくつろいでいたベポを抱え立ち上がった。


「まあ、コイツを連れて来てくれたことには感謝する。今のおれじゃ助けに行ける距離じゃねえらな」
「礼は良いよ。私も楽しかったしね」


ローに続いて立ち上がり、部屋のドアへと歩く彼を追う。
てっきりそのまま出て行くのかと思っていたのだが、ローはドアに手をかけた状態でこちらを振り向いた。


「礼は良い、って言われようが、それじゃあ納得できねえんだよ」


真剣な眼差しでそう言って、ローは長く形の良い指で、私の伸ばしたままロクに手入れもしていない髪を一房絡めとる。


「おれはいずれ海に出る。次に会うのは“偉大なる航路”の上だ。その時に改めて礼はする」


だから、これは前払いだ。


瞳の奥に焔のように揺らめく“何か”をたたえ、まるで愛しい相手に戯れるように、ローは自らの指に絡めた私の髪に口付けを落としたのだった。


艶めく瞳は“本気”の色を宿していた


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本当はここまで絡ませるつもりなかったんですが、
アニメでパンクハザード見てたら“たぎった”のでこうなりました。


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