long-美食會
□これは冷たい女の子のお話
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約22年前のことだ。
道端に赤子が捨てられていた。
『名前は紅蓮。1歳の女の子で誕生日は6月4日です。
どなたかお願いします』
こんな紙と一緒に。
赤子はすぐに拾われた。だが可哀想に、拾ったのは子供のいない夫婦でも、伴侶を亡くした老人でも、憐れに思った神父でもなかった。
IGOに所属する、研究員だった。
当時の彼らがグルメ細胞に望んでいたものは気候への適応性、特に極寒の地でも生き延びられるよう、寒さに強い人間を作ることだった。
ある程度は完成していた細胞だったが、いきなり美食屋に植え付けるのは恐ろしい。
──試してみよう、この赤子で。
とにかく紅蓮は、研究員に拾われたのだ。
早い話、研究は失敗だった。
寒さを感じないようにと低体温に設定したのだが、それがあだとなってこの赤子はすぐに凍る。
一応長時間触れたものを凍らせることはできるようだが、氷点下を余裕で下回る“極寒の地”では、何か凍らせるよりも前に己が凍ってしまう。
逆に暑さに強くて体内の水分量が多い人間にはなったのだが、気温と体温は比例するらしく、何かを冷やす程度しか出来ない。
それに他の研究で、特化させたい能力に関わらず、細胞は勝手に気候への適応をしてくれると分かった。わざわざ暑さ寒さに強いだけの人間を作らなくてもよかったのだ。
さあ、この失敗作の赤子をどうしようか?
ちらりと議題に出た紅蓮だが、答えは冷たいものである。
──そんなもの、森の中にでも捨ててしまえ。