long-美食會

□これは冷たい女の子のお話
1ページ/4ページ

 約22年前のことだ。
 道端に赤子が捨てられていた。

『名前は紅蓮。1歳の女の子で誕生日は6月4日です。
どなたかお願いします』
 こんな紙と一緒に。

 赤子はすぐに拾われた。だが可哀想に、拾ったのは子供のいない夫婦でも、伴侶を亡くした老人でも、憐れに思った神父でもなかった。

 IGOに所属する、研究員だった。

 当時の彼らがグルメ細胞に望んでいたものは気候への適応性、特に極寒の地でも生き延びられるよう、寒さに強い人間を作ることだった。
 ある程度は完成していた細胞だったが、いきなり美食屋に植え付けるのは恐ろしい。

──試してみよう、この赤子で。

 とにかく紅蓮は、研究員に拾われたのだ。

 早い話、研究は失敗だった。
 寒さを感じないようにと低体温に設定したのだが、それがあだとなってこの赤子はすぐに凍る。
 一応長時間触れたものを凍らせることはできるようだが、氷点下を余裕で下回る“極寒の地”では、何か凍らせるよりも前に己が凍ってしまう。
 逆に暑さに強くて体内の水分量が多い人間にはなったのだが、気温と体温は比例するらしく、何かを冷やす程度しか出来ない。
 それに他の研究で、特化させたい能力に関わらず、細胞は勝手に気候への適応をしてくれると分かった。わざわざ暑さ寒さに強いだけの人間を作らなくてもよかったのだ。

 さあ、この失敗作の赤子をどうしようか?
 ちらりと議題に出た紅蓮だが、答えは冷たいものである。

──そんなもの、森の中にでも捨ててしまえ。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ