long-美食會

□フラグなんてなかった。そうだろう?
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「ひ、ま!」
「うわぁっ!」

 ベッドの上でトミーロッド様が不貞腐れる。
 アルファロ様に担がれて帰ってきた時はとっても心配したのに…
 その時の心配を返せ、なんて怖くて言えない。今のトミーロッド様は腕の移植の為に療養中で気が立っているんだもの。

「紅蓮が持ってきた漫画もさ、こう…フラグばっかじゃん。特にこのジジイとか…
 ナギナタは持ってるだけで死亡フラグだってグリンが言ってたよ。しかもコイツ立ったまま死ぬよね?
 ボクは博識だから歴史関連は分かっちゃうんだよー」

 あーあ、注文の多いトミーロッド様め。
 じゃあ、もう読まないのかな、ワンピ●ス。ページを捲る係も意外と大変だから助かっ…

「誰も読むのやめるとは言ってないよ」
「…すみません」

 それから私は約4時間、トミーロッド様の「次」と言うのを合図に単行本のページを捲り続けた…
 というかトミーロッド様、ワンピ●ス気に入りましたよね?



「ああ…腕が…」
「紅蓮?」
「バリーガモン様、ですか…?」
「ああ…」

 廊下で会ったバリーガモン様は憐れむような声で返事をした。原因はきっと決まっている。私が視界を遮るまでの高さに積んで運んでいる漫画だと思う。

「アー…トミー様の暇潰しか」
「はい…同僚から借りたんです。トミーロッド様、多分気に入ったと思います」
「え…あの人が…」

 ああ、駄目だ、ごめんなさいバリーガモン様私腕が限界です早く同僚に漫画を返して解放されたいです早く話を切り上げて…!

「…貸せ」
「え?」

 又貸しはちょっと、と言おうとしたら、私の持つ漫画は5冊程度になっていた。

「…同僚が使っている部屋はどこだ」
「ち、地下です…けど…」
「センチュリースープについてはユーが一緒だったとはいえお手柄だったからな、今回だけ手伝ってやる」

 バリーガモン様は私の行こうとした方向に歩き始めた。漫画を積んで。バリーガモン様が持っていると漫画の山も小さく見える…じゃない!!

「な、なら、せめてもう少し持ちます…!」

 バリーガモン様から数冊を取ろうとして、手先が狂い腕に触ってしまった。

「あっ、すみません…」

 みんな忘れがちだけど、私はグルメ細胞の影響で極端に体温が低い。そのせいで私に触られるのを嫌がる人は、結構、いる…

「謝るこたぁねーよ」

 不思議に思って触れた箇所を見てみると、バリーガモン様の肌は何かでコーティングされているように見えた。

「不凍液だ…アイスヘルだってこれさえ分泌すれば寒くはないんだぜ。紅蓮の体温が0度でも平気だ」

 それからバリーガモン様は黙ってしまった。なんだか気まずくて、私は結局漫画を5冊しか運んでいない。

「じゃあな、そろそろ仕事がある」

 …同僚の部屋から去るバリーガモン様の背中に、お礼を言った後、続ける。

「体温0度だと、死んじゃいますよ!」
「…違いねぇ!」

 同僚は笑うバリーガモン様と私を交互に見て、訳が分からないという顔をしていた。


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