long-BestWishes!
□Anything Can Happen.
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「大丈夫だよ…きっと」
アイリスの言葉にデントはフィールドから目を離さず、半ば独白のように言った。
そんなデントに少し戸惑いつつ今度はサトシを見ると、さっきまでとの表情の変化に戸惑い、視線の先を追う。
「…!」
厄介なコンボが極められたというのに、クレオは焦りなど微塵も感じさせなかった。
ゆっくりと視線を観客席に向け、お得意らしいウインク。
自信すら漂わせるクレオに、アイリスは身を乗り出し笑顔で叫ぶ。
「クレオ、頑張ってー!」
美しさを求めるコーディネーターは、今は少したくましく見えた。
*
「よそ見してたらケガするよっ。
ミルホッグ、【蹴たぐり】をお見舞いしてやりな!」
「ホッグー」
ミルホッグはレントラー目掛け疾走する。
だがクレオは無言のままで、レントラーも指示を出さないクレオを不安がるようでもなかった。
「どうして指示を出さないんだ…?」
「どうしちゃったのよクレオ! レントラー!」
さっき一瞬抱いた安心感はどこへやら、サトシとアイリスは不安顔。
「まさか、受け止める気なんじゃ…」
デントの呟きに2人は小さく息を飲んだ。
ミルホッグは足を振り上げ、レントラーを攻撃しようとする。
だがレントラーは特に怯むこともなく、じっとミルホッグを見詰めていた。クレオもクレオで、そんな2体から目を離さない。
「当たっちゃう…!」
アイリスのから小さな叫びが上がった、その時だった。
「レントラー、【影分身】!」
「ルァンッ!」
技がきまるまでの一瞬をついて、レントラーの姿が十体以上にまで増えた。
「ミルッ?!」
空振りと対象の増加に驚いたのか、ミルホッグは技を止めて自らを取り囲む大量のレントラーにおののく。
キョロキョロ本物を探すも、分身一体一体のクオリティが高く到底見分けられそうもない。
ミルホッグはパニックに陥った。
「落ち着きなミルホッグ…!」
焦って見えるアロエにもクレオは容赦がない。
「きめるよレントラー…尻尾に【スパーク】を溜めて【アイアンテール】!」
分身全ての尻尾の星のような形の部分が、キラキラパチパチと光を溜め始める。
ミルホッグを中心にレントラーの分身は輪を作る。姿勢を低く獲物を狙うレントラーが中心に向けジリジリと歩を進める光景は、妙に恐ろしく、同時にゾクリとさせる程美しく冷酷だった。
──あれじゃあ、まるで何かの狩りみたいだ…
上から見下ろしていたデントは、鳥肌が立ったのを自覚する。
「ミルホッグ、もう一度【蹴たぐり】だ!」
「今だレントラー、【アイアンテール】!」
ミルホッグが一方に走り出したのと、キラキラと【スパーク】の残像を残しながら分身が本物のレントラーへ消えて行くのはほぼ同じ。
ミルホッグは足を振り上げ、1体になったレントラーはミルホッグの眼光に輝く尻尾を振り上げる。
「ミルホ───ッ!」
「ルアァァァァン!」
フィールドを閃光が包み、誰もが目を瞑り手で覆う。
次に目を開けた時、立っていたのはレントラーだけだった。
「………」
「……」
「…………」
「こらアンタ、審判の仕事しな!
いつまで目ェ瞑ってんだい!」
「ハ、ハイ!
ミルホッグ先頭不能、レントラーの勝ち!」
いつまでも目を瞑っていたキダチがアロエに怒られる事故はあったが、とにかくクレオはアロエに1勝した。