long-美食會

□優しすぎるのも如何なものか
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「ねえスタージュン。ボク、フグ刺が食べたい」

 ピタリ。周りに居た者が凍り付いたような気がする。丁度この前来た物覚えの悪いらしい使用人のように。そして彼らの視線が徐々に私へと集まってくるのが分かる。仮面をしていてよかった。今の苛立った表情は見せるべきでないだろう。

「…だから何だ」

 ニコニコ(と云うよりはニタニタ)笑うトミーロッドに問う。これは私なりの、奴へ与えたチャンスなのだ。今ここで先程の言葉を訂正するなりお茶を濁すなりすれば、私は許すつもりでいた。なのに。

「だからぁ、フグ刺食べたいって言ってんだろ。フグ鯨捕ってこいよ、フグ鯨」

 …ああ、仮面があってよかった。今なら眼力で人を殺せるかもしれない。奴は続ける。

「今日の調理担当、グリンパーチの分代わってあげちゃったぁ…この意味、分かるよな?」

 それは、今夜のボスのディナーが昆虫のフルコースになるということか?それにしても、グリンパーチも同罪だ。許さん。

「ということでさ、フグ鯨捕ってこいよ。な?」




「という訳で、悪いがGTロボを貸して貰いたい」
「……」「……」

 思わず無言になる私とお養父さん。だって…だって!セドル様から「オイラ大事な仕事頼まれたんだけどさー、手ぇ離せないから代わりにヨロシク!」と毛玉(?)から連絡が入り、嫌な予感がしつつも勇んで行って聞かされたのがこんな話だもの!セドル様、絶対に逃げたな…

「それでは…こちらからどうぞ」
「ん」

 お養父さんが行くように促した場所でスタージュン様が装置を身に付ける…仮面は取らないみたい。そして私とお養父さんは画面越しにGTロボからの景色を眺めつつ、機能に異常が無いかを確認した。よし、異常無し。
 パチン!スタージュン様が指を鳴らすと、黒い生物…童話で悪者の遣い魔にされていそうな、大きなドラゴンのようなものが現れた。すぐに視点がぐっと高くなり、スタージュン様がドラゴンに飛び乗ったことが分かる。そしてドラゴンは空を飛んでいく訳だが…とにかく、速かった。
 目的地がどこなのかは知らないけど、とにかくドラゴンはビュンビュン飛んでゆく。過ぎていく雲の速さから相当の速度、そしてかなりの風圧を受けている筈なのに画面に揺れはほとんど生じていない。これはきっと、スタージュン様の力が風圧に勝っているからだろう…本当に凄い。
 しばらくすると画面の上下が共に青色を映す。ああ、海だ。まあフグ捕まえるんだから、海なのは当然だけどね…。そして波が煌めいた瞬間!…スタージュン様、落ち…いや、飛び降りました。そこからは空中同様、もの凄い速さで進み続ける。すぐに深みへ至ったせいで薄暗くなってきたけれど、勢いが衰える気色がない。それにしても、一体どこを目指しているのか…

「…?」

 きらりと何かが、画面の奥で光った。心なしか画面も少しだけ明るくなった気がする。浅瀬にでも近付いているのかな…?

『…見つけた』

 スタージュン様が小声で言う。…と云うことは、あれがフグ鯨!なんだか無駄に可愛い…
 スタージュン様は次々とフグ鯨をノッキングし、持ち帰り用の網へ入れていく。集中している様子を私も集中して見てしまって、部屋に誰かが入って来たことに気付かなかった。視界を塞がれるまでは。
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