LongNovel
□拍手log
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「桜だ」
「まだ、梅も咲いてるぜ」
暖かな空気は春の匂いを漂わせ、時折吹く風は忘れかけていた冬を思い出させた。
三寒四温の街。
繋いだ掌は確かな鼓動を伝えている。
「はるだなぁ、はやいなぁ」
「きっとすぐ、夏がくるんだろうな」
「そうだな、貴様の誕生日なぞ、直ぐに訪れるぞ」
突風が花を散らす。
乱される髪を片手で抑えて、少しだけ目を伏せる。
そんな仕草ひとつひとつでさえ愛おしくて。
「どっか、いっちまいてぇなぁ」
このまま攫ってしまおうか。
*
「もう4月になっちゃう…」
「もうっつったって…あと一週間くらいはあるだろ?」
「一週間なんてあっというまだよ!!!」
温かい紅茶と、手作りのチーズケーキでアフタヌーンティー。
開け放した窓から吹き込む風は春の匂いがした。
「最近、時間の流れがすごく早く感じる」
「考えなきゃならねぇことが山積みだからだよ」
「なるほど」
今すぐ、答えが欲しいけど、そんなうまいこといかないわけで。
「なに、焦ることねぇよ。のんびりいこうぜ」
でも大丈夫さ、お互いが隣にいることは変わらない。
それだけで生きていけるさ。
*
「あれ、これ、何の木?」
「サクラよ、知らない?」
見慣れない小さな花を咲かす大樹はずっしりと地に根を張って僕らを迎えた。
流れる空気が春がきたのだという事を教えてくれる。
「綺麗だね、まるで君みたいだ」
「あなた本当にお世辞がうまくなったわ」
笑い合う。
手をつなぐ。
そうして再び歩き出す。
「明日ハリーに教えてやろう、いつも除け者で可哀想だ」
再び笑う。
春の風が吹いた。