LongNovel
□拍手連載*学パロンハー(仮)
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「あら…」
気がついたのは帰りの電車の中だった。まだまだ使いはじめたばかりの単語カード、びっしりとラテン語が書かれたそれが姿を消していたこと。そう言えば今日、降りる時慌てて降りたものね、きっとあの時だわ。
まだ半分も覚えていなかったのに…また作り直しか、とため息をつきながらその日は仕方なく小説を帰宅の共にした。これで、新しい単語カードと新しい小説が必要になってしまった、帰りに本屋さんによっていかなきゃ。鞄の中に何かしら本が入っていないと落ち着かないのよ。
「ハーマイオニー」
「あら、ドラコ」
もうずうっと通い続けた夕方の駅前、見慣れた風景に格別の想いを抱くことなく家路に就こうとした私に声をかけたのは腐れ縁の幼馴染。
嫌味ったらしいくらい綺麗な顔と綺麗な髪、態度まで嫌味ったらしいんだから嫌になるわ。
「珍しいわね、あなたがこんな時間に帰っているなんて、生徒会はどうしたの?」
「もう引き継ぎの時期さ、君は自分の学年を忘れたのかい?帰りの電車は優雅に読書なんてしていたようだけど」
「…見てるくらいなら声掛けなさいよ、気持ち悪いわね」
高等遊民である君の大切な読書の時間を邪魔しちゃ悪いと思ってね。彼はとても下衆っぽい顔でそう言った。育ちがいいのにあんな顔できる奴が彼の他にいるなんて思えないわ。あそこは家族揃って"いけすかない"からきっと血なのでしょうけど。
うちも決して貧困家庭ではないけれど、彼の家にはかなわない。筋金入りのお坊ちゃん。いけすかない、いけすかないと思いながらもこうして17年もの付き合いがあるのだから、やっぱり彼は腐れ縁、なのだ。
「悪いわね、私買い物があるから失礼するわ」
「おっと、引き止めて悪かったな高等遊民、僕は帰って化学のテキストでも開くことにするよ」
最後の最後まで期待を裏切らずに嫌な奴だわ、本当に。彼は私の学ばんとする学問を学問と認めていないのだ。文学も死学も生学も、彼からしたら高等遊民のする道楽と変わらない。なんて夢のない奴!
「あの、すみません」
いつもの朝、いつものホームでいつもの様にいつもの電車を待っていたら肩を叩かれてた。そんなイレギュラーに振り返ればどこかで見たことのあるようなひょろ長い赤毛の男の子の姿。何か?そう尋ねれば彼はしどろもどろになりながら何故か自己紹介をはじめた。
「あの、僕、ロン…じゃねぇや、ロナルドっていいます。こ、これ。あなたのじゃ無いかなっ、て」
そういって彼が差し出したのは昨日私がなくした筈の単語カード。私は驚いてまずは言わなきゃならないお礼の言葉を忘れて何故、と疑問符をこぼしてしまった。彼はやっぱりしどろもどろと答える。
「昨日、うちの高校の先生が君が落としたこれ拾ってるの見て、それで、毎朝、電車一緒だからっていって、その、預かって…きました」
「あぁ!あなた!そっか、どうりで見たことあるなって…」
彼の言葉で一挙に疑問が晴れる。そうだ、毎朝同じ車両の男の子だ。背が高いから、いつも頭ひとつ出ていて、とても目立つからよく覚えている。いつも私より先に電車に乗っていて、私より後に何処かの駅で下車している。
「あはは!ごめんなさいありがとう!私ハーマイオニー。ハーマイオニー・グレンジャーよ」
「あっ、ウィーズリーです。ロナルド・ウィーズリー。でも、僕のこと、知って?」
「貴方とても大きいから、目立つもの!」
名前も知らない私のために、わざわざいつもより一本早い電車に乗って、ここで降りて私を待っていてくれたなんて、なんてお人よしなのかしら。さっきよりもずっとリラックスした顔の彼を見て、その赤毛がとても人懐こいように見えた。そうして私は、これで終わりにするのは勿体無い、と柄にもないことを思ったわけ。
「ぜひ、お友達になっていただきたいわ。なんて呼べばいいかしら?」
「…!もっ!もちろん…!ロンって、友達はみんな!」
「そう、ロンね。わかったわ」
「えっと、僕はどうすれば…ハー…」
まずは名前の発音から覚えてもらわなきゃいけなさそうね。