If

□少女I、只今恋愛調査中
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【side I】


「イヴって、好きな人とかいる?」


唐突に訊いてきたのは、自称恋多き乙女である友人、アリス。
どちらかと言えばメアリーと仲がいい彼女だが、今メアリーは先生に呼び出されてここにはいない。


「好きな…人?」


心なしか、クラスの男子から視線を感じるけれど、きっと気のせいだよね。

何故か静まりかえった昼休みの教室で、私の脳裏に浮かんだのは――心に青い薔薇を持つ、背の高い男性。

すらっとしてるのに意外と力持ちで、怖がりなのにいつも強がる、特徴的な喋り方をする人。
あの日、私とメアリーと、一緒にあの不気味な美術館から脱出した、頼れる人。
美味しいお菓子を知っていて、可愛いものをいつもくれる、優しい人。

彼の事を思い出すたび、少し胸がきゅぅっ、と締め付けられるような感覚がする。
嫌じゃない痛み。

少し俯いて黙ってしまった私を見て、アリスは目を輝かせた。


「いるのね、好きな人!」

「えっ…!?」


好き?
うん、好き。…だけど、でも。


「ねぇねぇ、誰?私の知ってる人?このクラス?別の学校?」


さっきとは違う、息をのんだように静まりかえる教室に、アリスのはしゃいだ声が響く。

質問が少し恥ずかしくて、頬に血が上る。


「…別に、そんなんじゃ」

「もう、嘘はダメよ!ね、どうなの?」


う、と言葉に詰まる。
だって、私、彼に言われてるの。
"アタシとの関係は、メアリーや家族以外には秘密よ"って…


「…あ!もしかして、もうつき合ってたり!?」

「あ、う、えぇと…っ」


クラスメイトの視線が痛い。
いつぞやの美術館並みだよ、これ…。

私が困りきって、固まっていると、


「ちょっと、アリス!!イヴを虐めないの!」


からり、と扉が開く音と一緒に、メアリーが教室に戻ってきた。
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