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□甘い痛み止め
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――今日は私がごはん作るね!


いつも我儘をきいてくれる、優しいギャリーの為に、いつもは作って貰っているディナーを作ろう。
そう思って、私は現在ギャリーの家のキッチンを借りている。

調理実習なんかもあったお陰で、あまりしない料理の腕前もそこそこ向上した、はずだ。現に何度か手作りのお菓子を食べてもらったり――すごく美味しいと両親にもメアリーにもギャリーにも好評だった――、ギャリーの料理を手伝って褒めてもらったりしてきたし、自信はある。


「イヴ、何か手伝いましょうか?」

「大丈夫だから、ギャリーは座ってて!」


よっぽど心配なのか、さっきから5分と開けずそう訊いてくるギャリーが可愛くて可愛くて。

彼のオロオロしている顔を想像したとたん、


「…っ、」


ちく、と指先に痛みがした。

包丁の刃に、人差し指が当たっている。…少し食い込んでる。


ああ、やっちゃった…


そう思った瞬間、赤い液体が、つ…と指を伝い始めた。


「ねぇギャリー」

「なぁに?イヴ」


平静を装って、何気なく訪ねかける。


「絆創膏、ある?」


ギャリーの行動は迅速…ううん、神速だった。
光じゃないのか、とこっちが疑うくらいに。

私の隣に文字通り飛んできて、少し深めに切ってしまった指を見る。それはもう、まじまじと。


「…ギャリー?」


固まっている彼に声をかけるのと、指先を伝った赤い雫がまな板にポツリと落ちたのはほぼ同時だった。

彼が動いたのも、同時に近かった。


「…っギャリー!?」


小さく悲鳴を上げる私の喉。
さっきまでとは違う意味での不測の事態に、心拍数が跳ね上がる。

切ってしまった指は、手のひらごと高い位置に持っていかれていた。ギャリーが私の手をとったのだ。具体的には、彼の顔の高さまで。

しかも、
切った指に、彼は、あろうことか、


口付けている。


正確には、切った部分に唇を当てて軽く、本当に軽く吸い、舌を当てているのだが、そんな些細な違いは気にしてられない。
抗議の声をあげようにも、彼の真剣な表情に言葉は喉で迷子になってしまった。

喋るに喋れない沈黙。ばくばく煩い私の心音。カチコチと鳴る時計の秒針。
しばらくそうしていると、不意にギャリーは私を見た。


「…まったく」


ふと口から離された、私の手。

いつ持ってきていたのか、ギャリーは手に持っていた絆創膏を手早く貼ると、動けない私の、掲げられた手を彼の肩へと引っ張った。


「あ…」


そのまま、ふわりと抱き締められる。
ギャリーは、こつん私と額を合わせ、その菫色の美しい瞳に私だけを映して、囁いた。


「だから心配なのよ」


私が何か口にする前に、彼の唇に言葉は奪われた。



甘い痛み止め





(もう、しばらくアタシがごはんつくるわ)
(う…、ごめんギャリー)
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