短編集

□思い出
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本当は、お母さんがマフィアのボスなのは知っていた。

遠くない未来、病気で亡くなることも…


この力を、特別な力だとわかるのに時間がかかった。

なぜなら小さい頃から当たり前のように見えていたから。


暫くしてからお母さんに話すと、少し悲しい顔をして、こう言った


『何を見てしまっても、周りを幸せにしたかったら笑いなさい。』


そう笑顔で頭を撫でて教えてくれた。

少し哀しげな笑顔ーーーーーーーーーーー

お母さんは家にいる時間があまりなく、私は1人でいる時間が多かった。

勿論、お父さんも居たけれどお父さんも仕事で帰って来ない日が多かった。

寂しくなかったといえば嘘になる。

でもお母さんのことは好きだったから、帰ってきたときは笑顔で迎えるようにして、料理も何もかも用意した。

そしてお母さんはそれを見てあの大好きな笑顔でえらい子だって言って撫でてくれる。

それだけで胸が一杯だった。




そして、ある日お母さんが真剣な顔をして私を呼んだ。

胸がドキンとして、逃げたしたい衝動が身体を駆け巡ったけれど身体はお母さんの元へ行った。

『私の命はもう長くないの。』


単刀直入で、一番シンプルな形で私に告げた。

あまりのシンプルさに肩の力が抜けた。

『そう…。じゃあこれからは私がお母さんのおしゃぶりを守るのね。』

そう言うと、一瞬だけ目を瞑った。


『えぇ、あとこれから言うことは私があなたに託す使命と、お願いよ……聞いてくれる?…ユニ』


『うん。』


そして、私はお母さんの守っているマフィアや仲間のことを一人一人丁寧に教えてくれた。

そして、おしゃぶりの力も……


『周りを幸せにしたかったら笑いなさい』



この言葉が私の意識を現実に引き戻した。


『…何を見てしまっても、自分の仲間を幸せにしたいなら笑いなさい』


『…お母さん…』
 
 
そうしてお母さんは本当に居なくなってしまった。

だけど、お母さんの教えは忘れない。
 

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