歳の差なんて関係ない

私は貴方の為に輝き続けるのよ





目覚まし時計が朝の始まりを告げる。
温かな腕の中から抜け出し冷たい床に足をつけると、散らかっていた服を拾い上げ纏う。

顔を洗って、ついでに洗濯機のスイッチをいれる。台所に立つとエプロンをつけて、朝食と弁当の準備を始めた。

「おはよう〜」
「おはようございます」

目玉焼きを作っていると新聞を片手に持った慶次がやってきた。
既にスーツも着ている。
カウンターキッチンの向かいに腰を下ろした慶次にコーヒーを渡し、弁当用のご飯を詰める。

「今日は会議あるから、少し遅くなるかも」
「俺も部活が遅くなりそうです」
「来週、大会だっけ?」
「はい。新人戦です」

一つの皿に焼き上がったトースト、サラダ、目玉焼き、ウィンナーを盛る。
カウンターの上に同じ皿を二つ置き、慶次の隣に腰を下ろす。

「「いただきます」」

二人で揃って手を合わせる。
トーストには先日貰った苺ジャムを塗り、サラダと目玉焼きにドレッシングをかける。残りが少ないから帰りに買ってこよう。

「夕飯のリクエストはありますか?」
「う〜ん…シチューとか食べたいなぁ」
「クリームでよろしいか?」
「うん!ジャガ芋多いと嬉しいな!」

今夜は遅いと言われたが、自分は彼の帰りを待つことだろう。

「さあ、行かなきゃなあ〜」

食器をカウンターの上に戻した慶次が立ち上がる。時計を見ると、まだ余裕はあるはずだ。

「早出でしたか?」
「違う、ちがうよ!」

お弁当を巾着に包んで手渡すと、頬に柔らかな感触。

「仕事、早く終わらせて幸村とご飯食べたいから」

卑怯だと思う。
真っ赤に染まっただろう頬をおさえながら、顔がにやけないように業と怒りへとスイッチを切り替える。

「破廉恥」
「ハイハイ、じゃあ…行ってくるね」

玄関で見送り扉の鍵を閉める。
洗濯物を干して食器を洗う。着替えて、自分の弁当を鞄に入れて、おやつ用に買っておいた菓子パン二つも放り込む。

戸締まりを確認して、家を出る。

「行ってきます」

誰もいない部屋に声をかけ、鍵をかけた。


慶次と暮らし始めて早十年。
高校に入学した幸村は、全ての家事を担っている。慶次も手伝うと言ってくれるのだが、働き手の彼に家事までさせてしまうのは申し訳ない。

『良いんだよ?幸村は、俺にもっと頼って…甘えていいんだ』

大きな腕に抱かれて、愛していると告げた日。
くしゃくしゃに顔を歪めながら、慶次が呟いた。

歳の差は15もある。それでも、彼以外は考えられなかった。

愛をくれたのは慶次だったし、愛する方法を教えてくれたのも慶次だ。


依存している…


幼い頃の純粋な気持ちとは違う。他の誰にも渡したくない。
独占欲が強くて、それを表に出すのが苦手だ。



慶次は受け止めてくれた。大好きな両手で「当然だよ」。と、笑ってくれた。




――他の誰もいらないから、あの人だけいてくれれば…






貴方に恋して形を、色を、失って

ほらね?

それでも私は幸せなの

元の色に戻れないとわかっているけれど



さよならエバーグリーン





『少しでも貴方の色に近付きたくて』


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