『短編集』

□繋いだ手
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「さむっ…」

地下鉄を降りると寒さが身に染みた。
駅を出れば辺り一面雪化粧。今朝は雪なんて降ってなかった。当然傘も持ってない。ウチまで徒歩10分。走ればあっという間だが滑りそうだから止めた。

静かに舞う粉雪の中赤い傘をさした自分より少し背の低い長身の男が目に映る。後ろ姿で顔も傘で隠れてるけど間違いない。

「ヒソカ!」

俺の声に振り向いたのはやっぱりヒソカだった。小走りで駆け寄り傘の下に潜り込む。いくら小降りとはいえちんたら歩いてたんじゃ家に着く頃にはびしょ濡れだ。

ヒソカは今夜は冷えるからとシチューを作ったがバケットを買い忘れて駅近くのパン屋に買いに来たらしい。

俺の方が背が高いし傘は俺が持つことにした。傘を受け取ろうとすると無理矢理反対側の手に持つよう押し付けられる。

何なんだ?持ちにくいんだけど?

ヒソカは俺の空いた片手を握り、その手をヒソカのコートのポケットに入れた。

俺はこっぱずかしくて慌ててヒソカの手を振りほどこうとしたけど止めた。その繋いだ手が温かかったから…

どうせ辺りは薄暗いし人通りも少ない。

ヒソカは多分傘を受け取ろうとした時に俺の手が冷えてるのに気付いたんだろう。普段なら外でこんな風に手を繋いだりなんてしない。俺が嫌がるから。

今もポケットの中で俺の手が温まるよう摩ってる。



音もなく降り積もる雪の中、サクッ、サクッ、とほんの数センチ積もった雪を踏み締める二人の足音だけが響く。

傘を持つ手は冷たいままだけど、ポケットの中で繋いだ手はほくほくと温かい。





なあ?この繋いだ手はこんなにも温かくて優しいのに…いつになったら、血の臭いが消えるんだ?


…そんな事、聞けない。聞いても無駄だ。ヒソカはこれからも変わらない。戦闘狂の殺人鬼だ。

いつだったかヒソカが言っていた。医者と殺人鬼、癒す(治す)者と壊す者、まるで正反対だ と。全くその通りだよな。こんな馴れ合いがずっと続く筈がない。いつまでもこのままじゃいられないよな…。

「ヒソ「ねえ…」

俺の言葉を遮ったヒソカの口から出た言葉は “もう少し、このままでいさせて”

こちらを見る事は無く、その横顔は笑ってたけど少し悲しそうにも見えた。

俺は心を見透かされたようで何も言えないまま、ただヒソカの手を強く握り締めた。

お前がそんな風に言うのは自分自身変われないと分かってるからだろ?だから俺が嫌気がさして離れていくと…。

確かにそれも考えた…。でも、俺がお前を見捨てたら誰がお前にブレーキかけてやるんだよ?今はまだそんな力は無いけど…絶対強くなってやる!ハンターと医者!両立してみせるぜっ! 二足のわらじくらい履いてやる!


「くっくっ。勇ましい顔しちゃって♪ホント、キミは分かりやすいね。将来が楽しみだ♪」
「テメっ!? 分かってるならちったぁ大人しくしてろっ!だいたいテメーが ーーー」




その後もウチに着くまで口喧嘩(つっても俺が一方的に怒鳴ってただけ)してたが繋いだ手がほどかれる事はなかった。






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