立海部屋
□神の約束
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神は約束されなかった
空がいつも青いとは
私たちの生涯ずっと
行く道に花が咲き乱れているとは
神は約束されなかった
いつも晴れて、雨が降らないとは
喜びばかりで悲しみがないとは
常に平安があって、痛みがないとは
神は約束されなかった
労苦や試練を経験しないとは
問題や災難に遭わないとは
神は言われなかった
多くの荷を負わないとは
思い煩いを抱えないとは
神は約束されなかった
道は滑らかで広いとは
快適で楽な旅だとは
案内が要らないとは
険しく急な山を登ることがないとは
深い濁流を進むことはないとは
だが、神は約束された
その日のための強さを与えると
また
労苦の後の休息
道のための灯り
試練のための恵み
天からの助け
変わらぬ憐れみ
不滅の愛を与えると
---アニー・ジョンソン・フリント
「ブンちゃん。何読んどるの?」
「ん〜・・・詩集」
放課後の教室でブン太がなにやらしているなと思い、覗き込んでみると“神が約束されたことは・・・”という題名の詩を読んでいる最中だった。
珍しいこともあるのか。
頭の隅でそんなことを考えつつ、ブン太の読んでいる本に目線を落とす。
本には神が約束されなかったこと、約束されたことなどが何ちゃらかんちゃら書いてある。
(今の言葉遣いは、ちと可笑しかったかのう)
そのまま俺はブン太と一緒に詩を読むことに没頭した。
そして、詩を読み終えた途端ブン太はパタンと本を閉じて鞄の中に本をしまう。
「帰ろうか」
「・・・おん」
俺達二人は放課後の廊下をふざけ合いながら、手を繋いで歩く。
それはまるで子供が親に内緒でする遊戯のようで、恋人たちの秘密の時間でもあった。
放課後だけの特権。誰もいないところで誰にも見られずに楽しむ二人だけの時間。
けれど、神はこんなことも見ているのだろうか。
許されない罪。許されない恋。許されない愛。
俺達の絆を今にもハサミでちょん切って、二度とこんな過ちがないように正すのだろうか。
それとも、俺達の仲を温かく見守ってくれているのだろうか。不滅の愛を誓うのだろうか。
そう考えると無性に悲しくて、恋しくて、不安で、この世に一人ぼっちで置いていかれる様な気がして俺は握ったブン太の手を強く握った。
離さないように、離れないようにしっかりと。
「仁王・・・・?」
不安そうな目で俺を見上げるブン太。
まだ沈みきっていない6月の夕日がブン太の顔を照らす。
夕日に照らされた顔は儚くて、けれどとても綺麗で一生離したくないのに、そこから離れて行くようで怖かった。
怖い、怖い、恐い
不安でいっぱいになった俺の心はいつしかブン太を求めるように、体に命じられそのままその唇に唇を重ねた。
「んっ、・・」
小さく漏れる甘い吐息さえも離したくなくて、愛おしくて。
「っはあ、・・・」
どうか、どうか、神様。
約束してください。
俺達の間に愛が亡くならないことを。
不滅の愛をどうか誓ってください。
愛が去って行かないことを。