その他CP部屋

□せめてあなたの隣で
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「仁王」

雨が降りしきる窓をぼんやりと眺めていたら、後ろから呼びかけてきた声。
返事はしない、かと言って振り返るわけでもなく、そのままじっと雨の音に耳を傾ける。

「おい、大丈夫か・・・」
「大丈夫じゃ」

肩に置かれた手をそのまま払い、視線をまた窓に戻す。

一軍のNo.10とNo.9に勝ってから一夜が過ぎ、仁王雅治はいつもこんな感じだった。
何が原因なのか分からないまま、跡部はそんな仁王を見守るしか術がない。
最初は事実上のリタイアに精神的ショックを受けたのか、と思えばそうでもなく。
まだ肘が痛むのか、と言えば、そうじゃない、と跳ね返されるばかりだ。

「ったく、なんなんだよ」
なぜ仁王が自分に対して冷たいのか理由が分からず、跡部はイライラしていた。

「言いたいことがあったら何か言えよ」
そう言葉を紡いでも仁王は相変わらず無言だ。
跡部は呆れたようにため息を吐き部屋を出ようと、仁王に背を向けた。
「・・・・んで・・・・」
すると、かすかに仁王の方から消え入りそうな声がポツリ、ポツリと聞こえてくる。
「あーん?聞こえねぇよ」
しかし、雨の音と声の声量が足りないせいで聞こえない。
跡部はもう一度聞き返した。
「何で優しくするんじゃ」

ポツリ、ポツリ、呟くような声ではあったが、
跡部にはそれがちゃんと聞こえた。

――――何で優しくするんじゃ――――

確かに紡がれた声は跡部の耳に深く絡みついて
頭の中でリピートを繰り返す。

なぜ、
なんで、
誰のために、
優しくするのか、

跡部自身そんな事を問われたこともなければ、考えたこともなかった。
しかし、相手に優しくするのは人として当たり前、という常識は誰だって持っているものではないのだろうか。
「人として当たり前だろうが」
跡部はただ単純に思った事を口にしただけだった。
それなのに仁王は表情をどんどん曇らせていく
ばかりだ。

―――なんなんだよ、いったい――――

この男はいったい何が聞きたいのだろう、跡部の苛立ちは積もるばかり。
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