novel
□テスト期間中のチャリヤカー
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※高尾目線
「真ちゃーん、帰ろっ」
「あぁ。ちょっと待つのだよ」
授業が終わるチャイムが鳴ったと同時にすぐに緑間の机に駆け寄り、帰る支度をしている彼を待つ。
テスト期間中、部活動禁止というのはどの高校にもあるようで今日からテスト期間に入る秀徳高校もまた例外ではない。
テストなんて好きではないけれど、この日をどれ程待ち望んでいたことか。
「なぁ、真ちゃん。今日真ちゃん家行っていい?」
「?なんでなのだよ」
「真ちゃんに勉強教えてもらいたいなーって思って…?」
様子を伺うように顔を覗き込んでみると、毎度の如く眉間にしわを寄せて見返してくる緑間。
「お前はそんなに成績も悪くないだろう。俺が教えてやるまでもない」
だろうね。
真ちゃんならそう言うと思ったよ。
「いやね、今日やったとこでちょっと分かんないとこあったんだよねー」
「まだ学校にいるのだから先生に聞けばいいだろう」
けど甘いね、真ちゃん。
「俺、真ちゃんに教えてもらいたいの。ダメ?」
少ししょんぼりした表情を浮かべつつ見つめ返す─、緑間はこれに弱いのだ。
暫く沈黙が流れていたが、軽く溜め息を吐いて分かったのだよと呟くのを確認し、満足げに顔を緩ませた俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「─…だからここはこうなるのだよ」
「えー…よくわかんね」
「真面目にやるのだよ!」
ただ今、緑間宅。
懸命に教えてくれる緑間に分からないと嘘を吐いたのは今ので何度目だろうか。
教え方がうまいもんだから1回説明された時点で既に理解はしていた。
そもそも俺が真ちゃんの話真面目に聞かないわけないっしょ。
…ていうか、いい加減気付いてくんねーかな。
「高尾、聞いてるのか」
「ねぇ…真ちゃん」
俺が真ちゃん家に来たいって言った理由、まだ分かんないの?
そう言わんばかりに視線を向けてみるが緑間は頭上にはてなマークを浮かべているだけ。
「はぁ…ちょっと休憩しよーぜ」
「まだ10分も経っていないのだよ」
文句を言いつつお茶を用意してくれるのだから、まったく可愛い奴だと改めて思う。
ほんっと真ちゃん可愛いよなぁ。
顔がにやけそうになるのを我慢しながら緑間が用意してくれたお茶を貰った。
「これを飲んだらさっさと続きをやるぞ」
「そんな焦んなくたっていいじゃん」
笑いながら返したが、よく見ると緑間の頬がほんのり赤く染まっているのに気付いた。
「真ちゃん?」
「なんだ」
先程にやけそうになるのを我慢していたというのに結局にやけてしまう。
「顔赤くねぇ?」
「っ…赤くなどなってないのだよ」
「いやいや、絶対赤いって!」
思わず吹き出すと睨まれてしまったが、なんというかまったく怖くない。
「やっぱ真ちゃんといると楽しいわ」
「…ふん、お前が勉強をするために俺の家に来たわけではないことぐらい分かっていたのだよ」
なんだ、分かってたの。
「あ、そう?ごめんね、嘘ついてて」
「は?」
「え?だからーさっき分かんないって言ってたけど本当は最初の1回目の説明で分かって…」
「帰れ」
多分真ちゃんのことだから俺と二人でこうしてると恥ずかしいんだろうなー。
いや登下校とかも二人なんだけどさ、こういうプライベートっていうの?あんまないからね。
あーもう…、本当真ちゃん可愛いんだから─。
「おい」
「…え?」
いつの間にか緑間の顔が下に見えており、無意識に自分が押し倒してしまっていたことに気付いた。
「…早くどくのだよ」
「あー。わりぃ、わりぃ」
そんな顔で言われてもねぇ。
顔はもちろん耳まで真っ赤にしながら起き上がろうとする緑間の腕を押さえつけると、訝しげにこちらを見つめる瞳と目が合った。
「何を…している、早くどくのだよ」
「ごめん、真ちゃん。俺もう無理だわ」
さすがにキレられちゃうかなーとか思ったが意外にも緑間の返答は違うものだった。
「…まったく。好きに、するのだよ」
抵抗していた力が緩み、驚いて見ると赤くなりながら目を合わせないよう横を向いている緑間がいた。
どれだけ煽れば気が済むんだ、このツンデレは。
「真ちゃん可愛い…っ!」
そして有り難く緑間をいただいたのであった。
好きな人と一緒に居たい。
誰だってそうだろ?
だから俺も真ちゃんと一緒に居たい。
それだけなんだよ。
- end -