赤狐
□契約した者
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「…守ってあげるよ」
赤狐は、美和の寂しげな背中を見て、呟く。
そして、羽山を御堂の中に入れ、シーツで覆った。
「ふふ…普通の人が見たら、ヤバイよね」
羽山をシーツの上から撫でながら、美和は無理やりな笑顔で言うと、赤狐も口元だけ、にやけさせ言う。
「ここを開ける物好きは、君しかいないさ」
美和は、確かにと笑って言う。その目からは、涙が流れていた。
二人は、無言のまま、御堂を後にし、階段を降りて、聖子ちゃんという名前を付けられたお地蔵さんのところに行った。
そこにいるであろう、黒猫を探しに。
「大吾郎く…大吾郎さんッ」
案の定、そこには、汚いボロ布で聖子ちゃんを拭いている黒猫の大吾郎がいた。美和は、手を大きく振りながら、近付いて行く。
大吾郎は、その美和の呼びかけに応える事無く、チラッとこちらを見るだけで、一生懸命聖子ちゃんを拭いていた。
「もう…ホントに聖子ちゃんが好きなんだな〜」
美和は、呆れながらも何故か安堵な表情をしていた。
そんな美和を見ていた赤狐は、スッと向きを変え、音も立てず、大吾郎に近寄る
。
美和は、首を傾げながら、様子を見ていた。
ー狐と猫って…相性良いのかな?ー
なんて事を考えながら。
その時、
ドカッ!!!
「キィンッ!?」
「え!!?」
突然、赤狐が大吾郎を蹴り上げたのだ。
驚いた美和は、急いで、大吾郎の方へ向かう。
「…ぃ…つぅ…」
「大吾郎くんッ大丈夫?…なんて事すんのよ!!なんで?こんな…」
赤狐は、その美和の質問に答える事はせず、無言で二人を見下していた。
「…な、なんなんだッテメェは…」
大吾郎は、痛みを堪えながら、赤狐を睨み付けた。
すると、赤狐は目をガッと開け、
「死にたくなかったら、去れッ」
と叫んだ。
突然の事に、固まる美和と大吾郎。
「え…何?どうしたの?大吾郎くんは、私を助けてくれ、」
「去れッ!!裏切り者がッ」
「え?」
瞳孔が開ききった赤狐の目は、大吾郎しか見ない。
訳の分からない赤狐の言葉に、美和は、唖然としている。
「はぁ?裏切り者って…何の事だ…」
当然、
大吾郎も身に覚えがない事を言われ、呆然としていた。
その様子を見た赤狐は、またも大吾郎を蹴ろうと足を振り上げた。
その時、美和は大吾郎をかばう様に、前に出る。
「やめてッ!!大吾郎くんが何したって言うの?」
すると、赤狐は美和にグイッと近寄り、黄色い瞳で、
「ふっ…君は本当に何も分からないのか?この猫は、君が殺されるのを待ち、君の屍を喰らおうとしている裏切り者さ」
と見下す。
美和は、その赤狐の言葉を聞き、言葉を失った。
そして、ゆっくりと後ろにいる大吾郎の方へ目を動かす。
ーそ、そんな…事、あるわけ…
そうは言うものの、大吾郎=味方というのは、美和の思い込みに過ぎなかった。
それに気がつき始めた美和は、目を伏せ、考えた。
ー考えてもみたら、大吾郎くんは、一度も私を助けるという行動はしていない。
もし、赤狐様が言っている事が正しいなら…
羽山さんから、私を助けてくれた赤狐様の言う事なら…
…殺した方が良いの?ー
.