赤狐

□契約した者
1ページ/6ページ

「…守ってあげるよ」





赤狐は、美和の寂しげな背中を見て、呟く。

そして、羽山を御堂の中に入れ、シーツで覆った。

「ふふ…普通の人が見たら、ヤバイよね」
羽山をシーツの上から撫でながら、美和は無理やりな笑顔で言うと、赤狐も口元だけ、にやけさせ言う。
「ここを開ける物好きは、君しかいないさ」
美和は、確かにと笑って言う。その目からは、涙が流れていた。









二人は、無言のまま、御堂を後にし、階段を降りて、聖子ちゃんという名前を付けられたお地蔵さんのところに行った。
そこにいるであろう、黒猫を探しに。

「大吾郎く…大吾郎さんッ」

案の定、そこには、汚いボロ布で聖子ちゃんを拭いている黒猫の大吾郎がいた。美和は、手を大きく振りながら、近付いて行く。

大吾郎は、その美和の呼びかけに応える事無く、チラッとこちらを見るだけで、一生懸命聖子ちゃんを拭いていた。

「もう…ホントに聖子ちゃんが好きなんだな〜」
美和は、呆れながらも何故か安堵な表情をしていた。
そんな美和を見ていた赤狐は、スッと向きを変え、音も立てず、大吾郎に近寄る

美和は、首を傾げながら、様子を見ていた。

ー狐と猫って…相性良いのかな?ー

なんて事を考えながら。






その時、






ドカッ!!!
「キィンッ!?」








「え!!?」








突然、赤狐が大吾郎を蹴り上げたのだ。
驚いた美和は、急いで、大吾郎の方へ向かう。

「…ぃ…つぅ…」
「大吾郎くんッ大丈夫?…なんて事すんのよ!!なんで?こんな…」

赤狐は、その美和の質問に答える事はせず、無言で二人を見下していた。

「…な、なんなんだッテメェは…」
大吾郎は、痛みを堪えながら、赤狐を睨み付けた。

すると、赤狐は目をガッと開け、
「死にたくなかったら、去れッ」
と叫んだ。

突然の事に、固まる美和と大吾郎。

「え…何?どうしたの?大吾郎くんは、私を助けてくれ、」
「去れッ!!裏切り者がッ」
「え?」
瞳孔が開ききった赤狐の目は、大吾郎しか見ない。
訳の分からない赤狐の言葉に、美和は、唖然としている。

「はぁ?裏切り者って…何の事だ…」

当然、
大吾郎も身に覚えがない事を言われ、呆然としていた。
その様子を見た赤狐は、またも大吾郎を蹴ろうと足を振り上げた。
その時、美和は大吾郎をかばう様に、前に出る。

「やめてッ!!大吾郎くんが何したって言うの?」

すると、赤狐は美和にグイッと近寄り、黄色い瞳で、
「ふっ…君は本当に何も分からないのか?この猫は、君が殺されるのを待ち、君の屍を喰らおうとしている裏切り者さ」
と見下す。

美和は、その赤狐の言葉を聞き、言葉を失った。
そして、ゆっくりと後ろにいる大吾郎の方へ目を動かす。

ーそ、そんな…事、あるわけ…

そうは言うものの、大吾郎=味方というのは、美和の思い込みに過ぎなかった。
それに気がつき始めた美和は、目を伏せ、考えた。

ー考えてもみたら、大吾郎くんは、一度も私を助けるという行動はしていない。
もし、赤狐様が言っている事が正しいなら…
羽山さんから、私を助けてくれた赤狐様の言う事なら…






…殺した方が良いの?ー










.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ