6億分の1の奇跡。
□01 First of All
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螺旋の内を巡る世界、オリエンス。生まれては滅し、また生まれては滅びを繰り返す世界。
今もまた、全ての魂が無に還り、再び世界へ配置されようとしていた、一人の御霊の手によって。
しかし。
ある少女の魂が声を上げた。
――冗談じゃない。私は、この6億10万4971回のなかで、一度だってあの冷の月3日を越えたことが無い。ずーっと、私は17歳のまま。何故、私はいつもいつも死んでしまうの?
御霊は興味なく答えた。
――知らないわ。どうせ、生まれてしまえば此処での事は忘れるでしょうに。
少女はまた、声を上げる。
――忘れるって言ったって、ここに戻って来るたびに思い出して、嗚呼また死んでしまった、って悔しくなるのよ。酷すぎる。何なの、これは? 運命なの?
――さぁ。だとしたら、貴女の運命はよっぽど強固ね。
――軽く、言ってくれるわね……。本当に、“あの子達”にしか、興味ないのね。
――そうね。あの子達には、魂の役割があるのだから。
――……私の“役割”は、17年のあっという間の生を生きることだって言うの……?
――私の知る事じゃないわね。さあ、もう行って頂戴。
御霊は、手にしたパイプをひと振り。それにより漂う紫煙と共に、この空間に浮かんでいた魂たちは、正しい配置へと消えていった。もちろん、あの少女も。
――あれが、冷の月3日を越えたとしたら、何か変わるかしら?
御霊は、ふ、と首を振った。
――在り得ないわね。仮にあれが生きたとして、あの子達が生まれるまで800年以上ある。関係ないわ。所詮、あれも幾多の魂と同じ、ただの歯車……。
御霊は全ての魂があるべき場所へ戻ったのを確認すると、オリエンスの地へと降りていった。
……故に御霊は知らなかった。御霊の居なくなったその空間に、何処からか黄金の光が現れ、オリエンスの世界へ下っていったのを。
(さあ。鳥籠なんて、ぶっ壊せ。)