6億分の1の奇跡。

□04 アレシア・アルラシア と、350年後の世界
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ゆるゆると、沈んでいた意識が水面に引き上げられるように。
私は目を覚ました。
どうやら麒麟に起こされたらしい。
「……? 麒麟、何かあった……?」
――汝に客だ――
「え? ……え!?」

「全く……これはどういうことなのか、説明してくれるかしら?」

そこに、黄のクリスタルを睨みつつ、不機嫌を顔一杯に貼り付けてパイプをふかしているアレシア・アルラシアその人がいた。

と、とりあえず。
「あの……」
「何」
「パイプ、止めていただけませんか? その、一応洞窟内ですし、煙が充満して……」
「煩いわ、さっさと説明なさい」
ぎゃふん。
この人は苦手だ。同時に好きじゃない。
アレシアがち、と舌打ちした。
「今までの六億以上の輪廻の中で、こんなクリスタルが現れたことは無いわ。何度か、意図的に数を減らしてみた事はあるけれど。……それに、今回の輪廻を始めたとき、何か異物が紛れ込んでいたのは判っていたのに、なかなか此処を感知できなかったわ。相当、周到に気配を隠しているわね?」
アレシアは麒麟のクリスタルを見るけれど、麒麟は黙ったままだ。
「此処を見つけ出したと思ったら、此処には貴女が眠っているし。説明なさい。貴女は何なの」
「何、と言われましても……」
私は、なるべく対等な気持ちを保って返答する。どうにも、この人を相手にすると負けたくないと思ってしまう。単に嫌いなだけだけれど。
「私はこのクリスタルのルシ。このクリスタル……麒麟に命を救われた。そのお蔭で、どうやら私は死者の記憶を失わなくなったらしいね。村の人、皆覚えてるから」
「……やってくれるわね」
「不可抗力。でも、そのお陰で私は生き永らえることが出来たんだから。こうして、人の寿命はとうに越してしまっているけれど。……そして、私は、この世界の最後の歯車を廻す、薇【ぜんまい】でもある……」
「薇?」
「そう麒麟に言われたの。意味までは判らないけど。だから私は、此処でこうしてその刻が来るのを待っている」
「ああ、そう。では――一番重要なことを聞くわ」
アレシアの目が、私を射抜いた。
「このクリスタルは一体何? そして、貴女が待つ刻というのは? 私の実験に支障をきたすようなら……消えてもらうわ」
「……おっかない。まず、私にわかることだけ話させてもらう」
肩をすくめて言うと、更にアレシアの目がきつくなった。
だからおっかないっての。
「まず麒麟のことだけど。私にも良くわからない。なんでも、不可視世界よりも上位の世界、もしくは全く別のところから来た、って。まぁ麒麟自身にも明確に分かってるようじゃないみたい……そして、私がいるのは、最後の歯車の廻りだす刻を生きる為……0組と共に、ね」
「あの子達と?」
「そう。だから私はここで眠り、待っている。それが麒麟の願いだから。それに――あの0組と、生きてみたいから。――そういう訳ですので、その折にはよろしくお願いいたしますね、『ドクター・アレシア』」
慇懃に言えば、アレシアの顔は更に厳しさを増した。けれど考え込むように、しばらく黙ってから私を見つめて言った。
「そうね――何かの要素ぐらいにはなるかしら……? ――好きにしなさい。ただ、私の邪魔だけはしないで頂戴」
言い終えると、アレシアは憮然とした表情のまますっと消え去った。
「……善処するよ。……ま、わかんないけど」
再び一人となった洞窟で、宣戦布告のように呟いた。




「さて、と。麒麟。今どれ位か、わかる?」
――我に人の暦は判らぬ。が、数十年程は経ったのではないか?――
「それじゃ、外に出ても大丈夫かな。せっかく起きたのだし」
念のため今回はマントを着てフードを被り、顔を隠す。
――そういえば、随分と外が騒がしかったな。そのうち静かになったが――
「はぁ……また、大戦でもあったのかね……?」
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