タクミくん(long story)
□そっと伸ばした手(利久×政史)
1ページ/11ページ
ある日の放課後、寮に戻って郵便受けをあけると、封書が届いていた。
宛名は義姉で、自室に入ると政史は首を傾げつつ封を切った。
なかには一枚の便箋と何かのチケットらしきもので、とりあえず便箋を開き、内容を確かめた。
流れるような達筆で書かれていたのは、懸賞で映画のペアチケットが当たった、ということと、時期的にとても行けそうにないので良ければ友人とでも……という、内容だった。
チケットを確認した政史は先日の利久の言葉を思い出した。
談話室でテレビをみていた時にその映画の製作発表のニュースが流れた。
それをみた利久の言葉……。
「面白そうだなぁ……」
と、一言。
その時は「そうだね……」
と、返しただけで終わってしまったけれど、その映画のチケットがいま、政史の手の中にあるのだ。
政史はしばらく考えた末、チケットを机の引き出しに仕舞う。
そして、義姉に礼を言おうとテレカを片手に電話BOXへと向かったのだった。
政史はあれ以来、何の進展もないことに焦れていた。
唯一の進歩と言えば名前で呼んでくれるようになったことくらいだ。
利久にはゆっくりでいいとは言ったものの、たまにどちらかの部屋で二人きりになっても、キスどころか手を握ることさえない。
いつ同室者が帰ってくるかもわからない場所なのだから当然と言ってしまえばそれまでで……。
同じクラスだし、話題には事欠かないから気まずくなることはないにしても、もう少し利久を身近に感じたい、と思うのは欲張りなんだろうか……なんて、考えても仕方のないことばかり頭をよぎるのだった。
義姉に連絡したあと、自室で今日の分の課題を片付けつつ、頭を悩ませる。
チケットを改めて確認するとその映画を上映しているシアターが一番近いところでも電車の乗り継ぎが必要でおまけに上映時間が午後なのだ。
急げば、最終バスに間に合うかどうか微妙な時間で。
でも、もう一緒にいられる時間も残り僅かないま、せっかくのチャンスをふいにしたくないという思いのほうが勝り……。
チケットの日付の期限は再来週の週末、政史は一晩悩んで決心し、翌日チケットを手に利久の部屋を訪れた。
ドアをノックすると、顔を覗かせたのは富士岡だった。
「……片倉くん、いるかな……?」
「あいつなら、さっき出てったから談話室じゃないか……?」
「そう……ありがとう……」
政史は利久を探しに談話室に向かった。
談話室を覗くと、入り口のそばに利久の姿を見つけ、声をかける。
「片倉くん……いまちょっといいかな……?」
「あれ……政史、なんか用だった……?」
「……ここじゃちょっと……」
政史は談話室のなかに同室者の植田がいるのを確認する。
「……俺の部屋にきてもらえるかな……?」
「……う、ん……」
政史が誘うと利久は若干焦ったように応え、一緒に部屋へと歩いた。
室内に落ち着くと政史は利久に切り出した。
「ねぇ、片倉くん……」
「ん……?」
「……再来週の週末なんだけど、空いてるかな……?」
「いまんとこ予定はないけど……?」
政史はチケットを差し出した。
それを受け取った利久は驚きの声をあげる。
「あれ……この映画、こないだ言ってたやつだよな……?どうしたんだ……これ?」
「義姉さんが行けないからってくれたんだけど、片倉くんさえよければ一緒に行ってくれないかな……?」
「いいのか……?」
「もちろんだよ、ただね……上映時間が午後のみだから帰りが最終ギリギリになっちゃうと思うんだ……いいかな……?」
政史は小首をかしげ、利久を見つめる。
「この映画観たかったし、嬉しいよ……」
「じゃあ、明日にでも外出届け出しに行こうよ……」
「ごめん、政史……明日は都合が悪いんだ……」
「そっか……じゃ、ついでだし俺が出しておくよ……届けの締切も近いしね……」
「悪いな、政史……頼むよ……」
利久は顔の前で拝むように手を合わせた。
「気にしなくていいって……」
政史がふわりと微笑うと利久は頬を染め俯いた。