タクミくん(long story)
□そっと伸ばした手(利久×政史)
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次の日の朝、政史は許可証を提出するために職員室に向かう。
一瞬の迷いを振り切り、利久のものと2人分、外泊届けを選んで必要事項を記入し終えると職員室を出る。
片倉くん、ごめんね。俺ね……不安なんだ……もうすぐ卒業。ここから出たらどうなるんだろう……って考えてしまうんだ……。
だから……っ!
政史は歩きながら、はぁ……っとため息を吐くと顔を俯けたのだった。
その日の夜、夕食をとろうと学食に行くと奥のテーブルに利久の姿が見えた。
一緒にきていた植田に順番を頼むと利久のそばに近寄り声をかける。
「片倉くん……」
「あ……政史……いまから飯か……?」
「うん、そう。片倉くん、このあとって時間ある……?」
「あぁ、うん……」
「じゃあ、あとでまた……」
政史はそう言うと列に並んでいてくれた植田のところへ戻った。
食事が済み、利久とともにロビーに向かうと椅子に腰を降ろす。
「許可証、出しといたよ」
「ありがとな……ごめんな、まかせちゃって……」
政史は利久に嘘をついているという罪悪感もあってあえて朗らかに笑うと
「全然、いいよ……」
と答えた。
利久もにこりとして
「映画、楽しみだな」
とはにかむように笑った。
その時、廊下の向こうから利久を呼ぶ声が聞こえる。
「片倉……ここにいたのか……富士岡が探してたぞ……なんか辞書がどうとかって……」
「あっ!」
利久は慌てたように立ち上がり、政史をみた。
「俺のことは気にしないで……」
政史の言葉に利久は申し訳なさそうに謝る。
「ごめんな……じゃ、今度な……」
政史に手を振ると足早に去って行った。