タクミくん(long story)
□そっと伸ばした手(利久×政史)
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当日……。
映画を観に行く前に買い物をするつもりで、昼前のバスに利久と二人乗り込んだ。
一時間、バスに揺られ麓の街に着くと駅から隣町に向かう電車に乗り換える。
駅に着くと改札口を通り抜けてロータリーで立ち止まる。
「初めて来たけど、結構賑やかなんだね……」
「そうだな……いつもは麓の街で済ましちゃうもんな……」
「うん……」
政史は肯くと利久を見上げた。
「とりあえず、腹へったな……飯食えるとこ探すか……政史、なに食いたい……?」
「俺はなんでもいいよ……片倉くんは……?」
「俺は……そうだなぁ……」
利久が辺りを見回した。そして目についたファーストフードの看板を指差した。
「あそこでどうかな……?」
「いいよ……」
「じゃ、行こう……」
二人は並んで店に向かって歩き出した。
昼食を済ませると、近くのショッピングモールに入った。
特に目的もなく、ぶらぶらと歩きまわるうちに楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、急ぎ足でシアターに向かう。
上映開始時間ぎりぎりに滑り込むように席に着いた二人は顔を見合わせ、くすっと微笑んだ。
映画は超大作と謳われる作品で雑誌のレビュー通り、とても面白くハラハラドキドキし、楽しめるものだった。
映画が終了し、手洗いに立った政史は鏡をみつめ、息を吐いた。
このあと、どうしよう……片倉くんにほんとのこと言わないと……でも、どう言ったらいいかな……ここでいろいろ考えてても仕方ないよね、正直に言おう……
政史はしばらく悩んだが、一瞬の逡巡ののち、心を決めたように足を踏み出した。
出入り口のそばに利久が立っているのが見え、政史は小走りに近寄った。
「……片倉くん、待たせてごめんね
……」
「いや、気にすんなよ……じゃ、行くか……」
「うん……あ、あの、ね……」
政史が言いかけたときだった。
「あっ……!」
利久の声がかぶさった。
「えっ……?」
「ま、政史……っ、時間……っ!」
時計と政史を交互に見つめ焦った様子で利久は政史の手を握った。
「……急ごう!」
政史は思いもかけず利久に手を取られ、言いかけていた言葉を飲み込んだ。
と、同時に取られた手を利久にひかれ、走り出す。