タクミくん(long story)

□そっと伸ばした手(利久×政史)
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「あれ……?道こっちであってたよなぁ……」
「え……?うん、多分……」

走り出した時と同様、突然立ち止まった利久にそう聞かれ、政史は改めて辺りを見回した。

「……片倉くん、違う気がする……こんなとこ通ってないよね……?」
「やっぱ……間違えてるよな……どこで間違ったんだろ……?」

首を傾げつつ、なにげなく腕時計に目を落とす。

「あーっ!政史っ、時間……っ!」
「え……?」

政史がそう聞き返した時、ポツリと滴がかかり、雨が降り出した。
瞬く間に雨足が強まり、利久は政史を腕を掴み慌てて走り出した。
先に見えた角を曲がり、とりあえず雨をしのげる場所に入る。

「やむ気配ないな……」

二人で空を見上げ、ため息を吐く。

「バスも今からじゃ、間に合いそうもないよな……どうしようか……」

その言葉に政史は利久を見つめた。そしてこくりと息を飲むと利久の服の裾をギュウッと握り締める。

「……か、たくらくん……あ、のね……」
「ん……どうした……政史……?そういえばさっきもなにか言いかけてたよな……?」

利久に言われ、政史はドキンとする。

「え……っと、ね……片倉くん、ごめん……っ!」

政史は利久にむかい、頭を下げた。

「へ……?な、なに?政史……っ!?」
「……じ、つはね……今日、なんだけど外出、じゃなくてね……外泊にしたんだ……」
「え……っ、それって……えぇ……っ!?」

政史の言葉が脳内に届いた瞬間、利久は焦ったようにわたわたと慌てだす。

「あ、あの……ごめんね……勝手にこんなこと……」
「い、いや……怒ってるわけじゃ……っ」
「で、でも……」
「いや、ほんと、マジで、さ……ってか、逆に助かった、というか……?ほら……」

利久は腕時計を政史に差し出した。

「終バスの時間、過ぎちゃったしな……」

笑みを浮かべた利久に政史もホッとしたように微笑んだ。

「さて、どうしようか……バスの心配は無くなったけど……とりあえず雨もだいぶ小降りになったことだし、歩くか……」
「……うん……」

二人並び歩き出す。

取り留めもないことを話しながら、人通りがある方向へと向かう。
話しながら歩いていた政史はふと先にある建物に気が付いた。
その前まできたとき、政史は思い切って利久の腕をひいた。

「ん……なに、政史……?」
「片倉くん……ここ、じゃダメ、かな……?」
「え……?」

利久は政史に言われ、傍らの建物に目をやった。

「って、え……ちょ、政史……っ!?」

再び目を大きく見開き、慌てる利久に政史は顔を俯かせた。

「ごめん、冗談……駅前まで戻ればビジネスホテルとかあるだろうし、ね……」

利久は自嘲気味につぶやいた政史の腕を取ると、すたすたとその建物に向かう。
そして入り口のドアをくぐり、タッチパネルに近づくと適当にボタンを押し、政史の腕を引くとエレベーターに乗り込んだ。
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