タクミくん(long story)
□そっと伸ばした手(利久×政史)
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利久は政史の腕を掴んだまま、ドアを開けると中に入る。
そこまで何も言わないままついてきた政史だったが、部屋に入ると利久を見上げ、おそるおそる話しかけた。
「……あ、の……片倉、くん……?」
「……っ……!」
政史の問いかけに利久は盛大に赤面した。
「や、一晩泊まるだけなんだし、場所なんてどこでもいいよな……」
焦ったように言葉を紡いだ利久の背中に政史はそっと頭をもたせ掛けた。
「でも、うれしい……」
政史がその姿勢のまま呟く。
「いや……そんな……っ」
利久も言葉を重ねた。
政史はおろおろしつつも気遣ってくれる利久から名残惜しげに離れると、ベッド脇のソファに座った。
「片倉くん、とりあえず濡れた服乾かさないとだし、シャワーお先にどうぞ……」
「いや……政史こそ先に……」
「……じゃあ、一緒に入る?」
政史が悪戯っぽく笑みを浮かべて言うと利久はまたも焦りを滲ませ、
「じ、じゃ、先に使わせてもらうよ……っ」
と、言って急ぎ足でバスルームに入っていった。
「いってらっしゃい」
政史はふわりと微笑んだ。
普段から決して強引にことを運ぼうとしない利久が政史に気を遣ったとは言え、ここまでしてくれたことに政史はドキドキと高鳴る鼓動を鎮めようと胸に手をあてた。
「……片倉くん……」
大好きな彼の名を口唇にのせた。
ドアの開く音がし、振り返ると利久がバスルームから出てくるところだった。
「……お先……」
「……うん、じゃ俺もシャワー浴びてくるね……」
「……あ、あぁ……」
利久の返事を背に政史はバスルームに向かった。