タクミくん(long story)

□夏祭り(ギイ×託生)
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今夜はギイの東京の実家からほど近い場所で催されたお祭りに遊びに来ている。

ギイは藤色の地に濃いめのグレーの太いストライプ、ぼくはオフホワイトに薄茶の細いストライプが入った浴衣を着ていた。去年、ギイが着てたのがぴったりっていうのがなんだか悔しい気もするけど、それはひとまずおいておいて。

お祭りの規模は結構盛大で、右を見ても左を見ても屋台、屋台、屋台でたくさんの人で賑わっていた。
ぼくは人混みの中をワクワクとドキドキが綯い交ぜになった不思議な気分で気もそぞろに歩いていた。
着いてすぐ、ギイはあちこちの屋台をひやかしながら歩き出した。
普段から食欲魔神の胃名を取るほど大食漢のギイらしく、次々と買い込んだものが早々と消えてゆく。

「……託生、次はあれな……」

ギイが指差した先には、たこ焼きの屋台があった。

「……ギイ、まだ食べるの……?よくそんなに入るね……」

ぼくは半ば呆れながらギイを横目に見上げた。
「……そうか……?託生が食わ……なさすぎ……なんだよ……」

食べながら話すものだから、会話も途切れがちだ……。
とりあえず、リクエストのたこ焼きを購入し、ギイに手渡す。
それにしてもよく食べる。
焼きそば、フランクフルトに、トウモロコシ……。

「……託生?たーくーみ?着いてきてるか?迷子になるなよ?なんなら手つないでやろうか?」

前を歩いていたギイが振り返るとニヤニヤと笑ってぼくを見る。

「……結構です」

ギイのからかうような口ぶり。
ここでぼくが慌てたりするからギイが調子にのるんだとわかるから、素知らぬフリで歩き出す。

「待てよ、託生……」

ギイがそう言いつつ、横に並んだ瞬間

「うわ……っ!」

普段なら気にすることもないようなかすかな段差で履きなれない下駄に足を取られ転びかけた。

「……っと!大丈夫か、託生……?」
「……っ!ありがとう、ギイ……」

ぼくは恥ずかしさに頬を染めてポツリとお礼を言った。

「どういたしまして……」

ギイはにこりと微笑むとさりげなくぼくの横に並び歩調を合わせてくれた。

「……ごめんね、ギイ……」
「ん……?」

ギイがぼくを見つめている。
「呆れちゃうよね……」

ぼくは、目を伏せた。
「託生……?」

「……ぼくね、こんなふうにお祭りに来るの初めてなんだ……。うんと小さい頃、連れて行ってもらったことがあるにはあるけど、その頃はとにかく迷子にならないようにするのに精一杯で周りを見てる余裕なんてなかったから……」

ちらりとギイをみやるとまるで自分のことのように心を痛めているのがわかる。

「……っごめんね、気にしないで……」

ぼくは慌ててその場を繕うように微笑んだ。

しばらく歩くと人通りはまばらになり、先に小さな神社があるのが見えた。

「お参りしていくか……」

ギイの言葉に頷いたぼくは彼の後について鳥居をくぐった。
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