タクミくん(long story)

□未来への誓い(ギイ×託生)
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……PiPiPiPi……

サイドテーブルの上に置いていたスマホの着信音で目を覚ます。
画面表示を確認すると章三の文字……。
隣をそっとうかがうと、託生はまだぐっすりと寝入っているようでホッとしてベッドを降り、リビングに移動すると通話ボタンを押した。

「……章三……?」
「……悪い、取り込み中だったか……?」
「……いや、寝てた……」
「……起こしたか、そりゃ悪かったな……」

言葉の割に悪びれた風もなく、淡々とした口調で章三が謝る。

「いや、かまわないが……どうした、トラブルか?」

託生に内緒でサプライズパーティーを企画し、驚かせてやろうとこちらでの連絡係兼セッティングを章三に任せていた為、それ関連でのトラブルかと尋ねた。

「誰に聞いてるんだ……そんなわけがないだろう……」

憮然とした表情の章三が浮かび、オレはくすっと笑みを零した。

「そうか……それじゃなんだ……?」
「すべて滞りなく準備が終了したから、その連絡だよ……」
「……え……!?もう済んだのか……?」
「あぁ……あとはギイに最終確認してもらうだけだな……」
「さすが、オレの相棒だな……」

そう言って笑ったあと、近況報告を兼ねて少し話をして、今夜の約束を取り付けると通話を切った。ベッドルームに戻ると、託生が目を覚ましていた。

「……村山さんから……?」
「……あぁ、うん……」

章三からだったとは言えず、多少の後ろめたさを感じながら適当に言葉を濁す。

「お仕事……?」

託生が小首を傾げて聞く。

その仕草に煽られそうになり、慌てて言葉を紡いだ。
昨夜に続き、今朝も……。
あれだけ愛し合ったにもかかわらず、また……なんていくらなんでも託生を壊してしまう……。

「そうなんだ……。夕方から出なくちゃならなくなった。託生を一人にして悪いが……」
「いいよ……お仕事なら仕方ないし……」

そう言いつつもさみしそうな顔に罪悪感が沸くがこのことを託生に話せない以上どうしようもない。

「ごめんな……。それより託生、無理させただろ。身体辛くないか……?」
「……っ!だいじょぶ、平気だよ。心配しないで……」

頬を朱く染めながらはにかむように微笑った託生に近寄ったオレはギュッと抱き締め頬にキスした。


夕方……。

「じゃ、行ってくる……」
「うん……いってらっしゃい……」

いつものように軽いキスを交し合い、微笑むとオレは部屋を後にした。



ホテルを出て章三との待ち合わせ場所に向かう。
指定されたホテルのロビーに着くと先に着いていた章三がオレに気付き歩み寄ってきた。

「久しぶりだな……」
「そうだな……葉山は元気か……?」
「あぁ、こっちは変わらないさ。奈美ちゃん、順調か?翔にも会いたかったな……」
「おかげさまでな……翔は元気良すぎて奈美を困らせてるよ……」

章三と奈美ちゃんは数年前に結婚し、第一子である翔を授かった。現在二歳になる。奈美ちゃんはいま身籠っていて予定は秋ごろだと聞いている。

並んで歩き出しながら取り留めもない話をする。
章三おすすめの個室ダイニングに着き、名を告げると席に案内された。

そこはメディアで最近注目されている店でアクアリウムスペースやVIPルームも備えており、大人向けの寛げる空間を演出している店だった。

席に着きそれぞれ注文を済ませると、オレは早速とばかりに本題に入った。

「全部、任せて悪かったな……。それで、オレが確認しなきゃならないことってのは……?」
「あぁ……事前に聞いてたメンバーには連絡とって、全員出席の返事をもらってるし、会場も押さえてある。あとは葉山を連れ出す方法だがそれはギイに一任していいんだよな……?」

オレは章三の問いかけに肯いた。

「あ、そういえば例の企画に関してはどうなんだ?うまく運びそうか……?」
「そっちは高林たちががうまくやってくれるよ。当日、罰ゲーム的なノリで葉山にやらせるって言ってたぞ……」

苦笑しながら言う章三にオレも笑った。

「あ……それとギイ、明々後日の夜なんだが、時間とれるか?三洲たちとも話を詰めておきたくて会う約束をしてるんだ、都合がつくようなら顔出してほしいんだが……」
「……明々後日か……」

オレはポケットからスマホを取り出し、予定が何とかなることを確認する。

「来られるのは八時になるが大丈夫か……?」
「それはかまわないさ。みんな揃うのもそれくらいじゃないか?」

そこへ料理が運ばれてきて話が中断する。
久しぶりの再会に軽くグラスを合わせると食事をしつつみんなの様子を訊ねた。

「みんな、どうしてるんだ?」
「矢倉と八津はギイの方が詳しいよな」
「あぁ、何度か二人で会いに来てくれたからな……」

お互いのグラスが空になったのをみてとり、新しいものを注文する。
ほどなく運ばれてきたそれに口をつけた。

「高林はこないだ主任になったらしいぞ」
「へぇ、確か国立天文台の学芸員だったよな?あいつが主任か。あんな我が儘放題のやつだったのにな……部下に無理難題押し付けてたりしてな……」

章三と顔を見合わせるとくすりと笑った。

「で、吉沢と駒澤が警察関係だろ。野沢が音楽教師でいま、学園の方にいるって言ってたな……」
「あいつらが警察関係ってのはうなずける話だな。そういや、野沢も音大に進んだんだったよな?いまは教師か……」

そのとき、ポケットの中でスマホが震える。
着信を確認すると村山で章三に一言断りを入れると通話ボタンを押した。


『CIO(最高情報責任者/IT担当役員)、明日の予定が一部変更になりました。詳細はPCにメールしておきましたので後程確認お願いします』
「……わかった……」

通話を切ると章三に向き直る。

「相変わらず忙しいな……」

章三の何とも言えない表情に苦笑いを浮かべた。

「三洲は確か親父さんの企業に入ったんだったよな?真行寺は……?」
「あいつは営業マンだよ。あのルックスを最大限にいかしてるんじゃないか?」

章三の言葉にオレは思わずふきだした。

「そういや岩下、こないだ雑誌で見たぞ。茶道の師範なんだって?人気あるみたいじゃないか。そういえば片倉はどうしてるんだ?」

「片倉は食品関係の会社で働いてるらしい。家業は継がなかったんだな……。継ぐと言えば蓑岩にも会ったな。議員秘書をしてるって聞いたが……議員を目指していたりするのかね……?」

章三の聞くともない呟きに曖昧に首を傾げ、そのあとも世間話をしながら章三との時間を楽しんだ。
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