タクミくん(long story)

□素直になれなくて(乃木沢×玲二)
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「帰国したら、会いに行くから……」

彼の言葉が耳に何度となく蘇る。



あの電話から一週間後、テレビのニュースで使節団が無事帰国したと報道しているのを聞いた。
無事だということは判っていても、実際に帰国できるまでは心配が尽きず、玲二はニュースを聞いた瞬間、安堵の余りへたり込みそうになる足を叱咤し、自室に戻った。


だが帰国報道から数日、いまだ彼からの連絡はない……。
議員秘書という仕事が普段からして多忙を極める職種である上に事件に巻き込まれたことで、例え帰国できたとしても、事後処理などに追われてすぐ休暇を取れるとは思っていなかったが、彼から連絡がない以上自分は待つしか出来ない。

声を聞くことさえ叶わないまま、徒に時間だけが過ぎていくのに焦燥感が募る。
いてもたってもいられなくなった玲二は手紙を出そうと思い立ち、机にむかう。
何度も書き直してようやく書き上げた玲二は封をして手紙を投函した。




その日乃木沢がやっと職務から解放され、自宅マンションへと戻ってきたのは日付も変わり、だいぶ時間も過ぎた頃だった。
集合ポストをあけ、郵便物を取り出すとエレベーターに乗り込む。

乃木沢が住むのは事務所から程近い場所に建つ駅直結型のタワーマンションの最上階だ。
居住階につくとキーを取り出して玄関をあけた。
室内に入り、リビングのテーブルの上に先ほどの郵便物を放り出すとキッチンに行った。冷蔵庫からビールを取って口をつけながらリビングに戻るとネクタイを緩めつつ、ドサッとソファに腰をおろした。

テーブルの上にちらりと目をやった乃木沢は、チラシやDMなどの間から他とは色合いの違う封筒がのぞいているのに気付き、取り上げる。

見覚えのある表書きの文字に裏を返すと今、一番会いたくてたまらない彼の名前……。
逸る気持ちを落ち着け、丁寧に糊付けを剥がすと便箋を取り出した。

約束を守れていない自分を責めることもできるはずなのに、ただ乃木沢の体調を気遣う内容に頬がゆるむ。
ますます玲二に会いたいという気持ちが募るが、まだ自分の周りは慌ただしく、しばらくは休暇が取れる目処もたたない。
ふーっと大きく嘆息した乃木沢は首を振り、天井を仰いだ。


―――はやく玲二に会いたい……。
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