タクミくん(short story)

□逢いたくて……(ギイ×託生)
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ぼくは兄の墓前を辞し、空を見上げた。

「思い立ったが吉日だぜ」と言ってバス停で大きく手を振ってくれたギイ……
あぁ……早くギイに逢いたい……


電車とバスを乗り継ぎ、息せき切ってバスから降り立つと、門にむかって走り出した。
新緑が目にまぶしい並木道の向こうに背の高いシルエットが見えた。
生い茂る葉の隙間からの陽光に髪がキラキラと輝く。
「ギイ……っ!」
ぼくは笑みを浮かべてその広い胸に飛び込んだ。
「おっと……おかえり、託生……」
ギイは微笑んでぼくの髪を優しく梳くとそっと額にキスをくれた。





―――数時間後―――


シャワー浴びてバスルームから出てくると、ギイはベッドに座り、雑誌を読んでいた。
「託生、点呼済ませといたから……」
ぼくが出てきたことに気付いたギイが顔をあげるとそう言って微笑むとまた雑誌に目を落とす。
「あ、ありがとう……」
ぼくはベッドサイドに近づくとギイを覗き込んだ。
「……ギイ、今日はありがと……」
「……ぼくね……今日、兄のとこへ行ってよかったと思ってるんだ……」
黙ってぼくの話に耳を傾けてくれているギイに微笑んだ。


――いつかは向かい合わなきゃいけないと思ってた……でもそれが怖かった。
怖くて立ち止まったままだったぼくにギイが勇気をくれた。こんなぼくでもこんなにも真摯に愛情を注いでくれるギイの存在が前に進んでいいんだ、って背中を押してくれたんだ――


「……ギイ、ほんとにありがとう……ぼく、ギイに出会えてよかった……」
ギイの胸にそっともたれかかり、上目遣いで話しかけるとギイは驚いたように目を見張った。
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