タクミくん(short story)

□ネクタイを解く手(ギイ×託生)
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「ギイ、遅いな……」
ぼくは走らせていたペンを止め、時計を見やる。
「託生、悪い……ちょっと出てくるから点呼頼む……」
一緒に夕食を済ませ、305号室に戻ってすぐ尋ねてきた赤池くんとなにやら話していたかと思うとそれだけ言って2人して身を翻すように出て行った。
いつもなにかれとなく多忙なギイは結構留守がちで今日のように点呼を頼まれることもままあった。
「でももうすぐ消灯時間なのに……」
小さく呟いたぼくの耳にカチャッとドアの開く音が聞こえた。
「ただいま、託生」
そう言ってギイは、ぼくに近寄り、頬に口づける。
「お、かえり、ギイ」
ギイのことを考えていた矢先だったぼくは幾分ぎこちなくなりながらもギイにそう返した。
「遅かったね……点呼は大丈夫だよ……」
「サンキューな。託生は宿題か?」
「うん。提出、今週末だよね。ギイは終わったの?」
「あぁ……」
着替えるためにクローゼットに向かうギイに聞かれ、そう言いつつ振り返ったぼくはギイがネクタイを解く手を思わず見つめてしまっていた。
特別なことなどなにもない日常の動作、それなのに思い出してしまった。
あの細く長い綺麗な指先がぼくの肌を余すところなく滑るのを……。
「託生、どうした?」
「……っ!」
ぼくの視線を感じたのかギイに訝しげに声をかけられ、ぼくは思考を打ち消すように慌てて机に向き直った。ギイにはぼくの考えていることなんてお見通しなのかもしれないけれど。
「ぅうん、なんでもない……っから」
そう言ったぼくにギイが近付いてくる気配がし、思わず固まった。
「託生?」
ギイの指先がぼくのあごにかかり、上向かされて、恥ずかしくてとっさに目を閉じたぼくに小さく囁きが落とされる。
「……託生……オレを見て……」
おそるおそる目をあけると、間近にギイの薄茶色の瞳があった。
「ギ、イ……」
小さく息を吐くように呼びかけると口唇を重ねられ、触れるだけの口づけを何度も繰り返される。力が抜け、ギイの胸にもたれかかるように身体を預けるとギュッと抱き締められた。
「ギ、イ……?」
「……いま、なに考えてた?」
「……っ!」
耳元にそう囁かれ、ぼくはビクリと震えた。
「託生、かわいい……」
ギイはくすっと笑みを漏らした。
耳朶をするりと指先で辿られ、くすぐったさに首をすくめるとチュッと音をたてて頬にキスをし、身体を離したギイはすたすたとドアの方へ向かった。
ぼくの視線がギイを追う。
カチリ、と音をさせて施錠し、照明を落としてそばに戻ってきたギイはぼくを立ち上がらせた。
「……託生の?それとも……?」
小さく囁かれ、こくりと息を呑んだぼくは
「……ギ、イ……」
とだけ答える。
その瞬間、腕を引かれたかと思うと、ギイのベッドに押し倒された。


→あとがき
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