タクミくん(short story)

□スーパームーン(ギイ×託生)
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「葉山……」

ぼくは章三に呼ばれて読んでいた本から顔をあげた。

「なに?赤池くん?」

すると目の前に紙切れを差し出された。なんの変哲もないただの便せん……

ぼくは不思議に思いながらそれをそっと開いた。
と、フワリ、と香った花の香り。

「……これ……」

ギイからの手紙だった。
流麗な文字で綴られたぼくへの招待状……

「渡したからな」

章三は腕を組み、仕方無さそうに息を吐いた。

「ありがとう……っ!」

ぼくはその便せんを胸に抱きしめると、微笑んだ。

「……まったく……ぼくは伝書鳩じゃないんだからな……」
「ごめんね……」

章三に謝りながらも嬉しさを隠せないぼく……

「で……?なんて書いてあったんだ?」
「えっとね、今夜8時に寮の屋上に……。だって……屋上?何だろう……?」
「屋上……。ふぅん、そういうことか……」

なにかわかったのか章三がつぶやいた。

「なんだい?」
「……行けばわかるさ……」

そう言って、はぁ……っと溜め息を吐き、背を向けた。





――そして、8時少し前。

ぼくはそっと屋上を目指した。
ノブに手をかけ、押し開けると、蝶番のキィッと軋む音がする。

屋上に出ると、月明かり……
でも、誰もいない……
ぼくはドアを閉めるとキョロキョロと辺りを見回す。

「……っ!」

背後からギュッと抱きしめられた。
大好きなギイの香り……

「……ギイっ!」

ぼくはクルリと向きを変えるとギイに抱き付いた。

「……託生……」

しばらくそのまま抱きしめあったあと、そっと身体を離され、顔をのぞき込まれた。

「……っ」

ぼくは思わず赤面する。

「託生……?」
「なんでもないよ。それより、なんでここなんだい?」

ぼくは見惚れていたなんて言えず、誤魔化すようにギイを見上げ、訊ねた。

「あぁ……」

ギイはぼくの肩を抱くと、歩き出した。

「……上みてみろよ……」

そして、立ち止まるとぼくを促した。

「……わぁっ!」

ギイに促され、空を見上げると満月。しかもかなり大きくて、いつもよりも明るい。

「……綺麗だろ?今夜はスーパームーンって言ってな、月が地球に一番近づく日なんだ。数年前にもあってな、その時は13%も大きく30%も明るかったそうだぜ」
「……へぇ、そうなんだ……」

ぼくはギイの説明を聞いてまた空を見上げた。

「……本当に綺麗……」
「だろ?これを託生と見たくてな……」
ギイはそう言って微笑み、さらにぼくを抱き寄せる。

「……それにな……地球と月はたとえ、離れることがあったとしてもまた近付く……それを託生に伝えたくてな……」
「……ギイ……」

ぼくが不安に感じてるの解ってたんだね。
だからーー

「……ギイ、ありがと……」

ぼくは微笑むとギイを見つめた。

「なにがあろうとオレはお前を離さない……。たとえ……離れることがあったとしても必ず迎えにくる……だから信じて待ってろ……」

ギイの真剣な眼差しとその言葉にぼくの視界がぼやけてゆく……。

「……ギ、イ……っ」
「託生……っ!」

もう一度ギュッと抱き締められた。
そして月明かりの下、ぼくたちは口付けを交わした。



→あとがき
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