タクミくん(short story)
□practical joke(ギイ×託生)
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今日ぼくはギイと一緒に出掛ける。と言っても例によって、一緒に下山して行動を共にするわけにも行かず、赤池くんに協力してもらって、ぼくは赤池くんと二人で、ギイは一人で下山して、余り祠堂生が来ないお店を選んで待ち合わせする予定になっている。
ぼくが服が欲しいと言っていたのを赤池くんから聞いていたらしいギイが、最近会えていないし、ぼくに用事がないならデートがてらオレが洋服を選んでやるよ、と麓に誘われたのだ。
下山して、落ち合ったあと、割合大きめのデパートに足を運んだ。
カジュアルなものを置いている店を選び、選んでいたぼくに、ギイが数着の洋服を差し出してきた。
「これ、着てみろよ」
「うん」
ギイに言われ、試着室を目で探した。
「あそこにある……」
ギイがそちらを指し示した。
「あ、行ってくるね……」
ぼくは洋服を持って試着室に向かうと入る。
着替えようと、服に手をかけたとき、カチャリとドアのあく音がし、ギイが入りこんできたことに驚いたぼくは慌てて服をおろすとギイに抗議した。
「っ……ギイ!まだ着替えてないから……てか、入ってこないでよ、お店の人、変に思うだろ?」
「男同士なんだから平気だって。オレがみてやるよ……ほら、脱げって……」
ギイはぼくの服に手をかけ、無理やり脱がそうとする。
「ちょっ!ギイ、やめてってば……どこ触ってるのさ……」
試着室内での攻防が続く。
「しっ!騒ぐなよ、気づかれてもいいのか?」
「っ……」
ギイのトドメのようなセリフにぼくはフリーズした。
それを了承ととったのかギイがぼくの胸元に指を伸ばし、ボタンをはずし始めた。
スッとシャツの中に差し込まれた手のひらにびくり、と身を竦ませた直後、ドンドン、と無遠慮なノック音が響く。
「ちっ、いいとこだったのに、章三のやつ……」
ギイはぼくから離れるとドアをあけた。
「っ……赤池くん……」
「ギイ、お前って奴は、恥というものを知らないのか?」
苦虫を噛み潰したかのような渋面になった赤池くんがそう言った。
「ん?なにがだよ?ここはそういうためのところなんだろ?」
ギイは飄々として、悪びれず赤池くんにむかって返した。
「……っ、よしんばそうだとしても、だ……お前……」
赤池くんは、はぁっと大きく嘆息する。
「ち、ちょっと待って……そういう場所って?」
ぼくは二人の言っている意味がわからず、目を白黒させた。
「なに、タクミお前知らなかったのか?」
ギイが笑みを浮かべてぼくをみる。
「……何を?」
「だから……ここはカップルのための試着室なんだよ……」
「えっ!」
ぼくは思いもしなかった答えを聞かされ、頬を赤く染めた。
「ギイ!お前ちょっとこっち来い……葉山、お前は早く着替えろ……」
赤池くんがギイを連れ出そうとしてくれる。
「う、うん、……赤池くん、ありがとう」
「……章三、待てって……」
ギイは連れて行かれる寸前、ぼくの耳元に口唇を寄せると、コソッと囁いた。
「タクミ、今夜消灯後ゼロ番な……いいだろ……?」
「っ……!」
あえてベッドの中と同じセリフを使われ、ぼくは更に赤くなる。
「ほら、早く来い!」
ギイが赤池くんに連れてかれた後、ぼくはその場にしゃがみ込んだ。
「ギイってば……」
赤く染まった頬を押さえ、呟く。
しばらくして、ぼくは服を直し頬の赤みが消えているのを確認すると試着室を抜け出したのだったーー。
→あとがき