タクミくん(short story)

□Birthday2014(ギイ×託生)
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ベッドに腰掛けたぼくは手元のスマホをみた。
時刻は23時58分、あと2分で7月29日、ギイの誕生日になる。
と言ってもギイのいるニューヨークとは時差が14時間、今はサマータイムで13時間だからまだ28日の午前中だ。
ぼくはギイにメールを打ち始めた。

『お疲れ様。
今日も講義とレッスンでクタクタです。
ギイも忙しくしてるんだろうけど、きちんと食事と睡眠はとってね。
おやすみなさい。託生』

「…送信っと。今年はどうしても無理だって言ってたよね…忙しいみたいだし。残念だけど…」

メールを送信するとぼくは小さく呟いた。

「でもまだプレゼント何にするか決めてないんだよね…ギイってば聞いても何でもいいとか言うし…」

なんだか一人暮らしを始めてからひとりごとが多くなった気がする……のは仕方ないのかな。
ぼくはいろんな意味を込めた溜息をひとつ吐いた。



前期授業最終日のその日、お昼休みの間にギイにバースデーメールを送信し、午後からはレッスンに明け暮れた。
長期休暇前のレッスンだったせいなのか、普段よりも厳しくチェックされて解放された瞬間、ホッとした。
同じグループにいる学生と今日のレッスンの批評をしあい、別れたぼくは帰路に着いた。

最寄り駅に向かう途中、道路際に停められた車のそばに見覚えのあるシルエットが佇んでいるのを見つけた。
思わず立ち止まったぼくの気配に気付いた彼は、俯きくゆらせていた煙草をもみ消しながら顔を上げた。

「よっ、託生」
「…っギイ!?」

いつもの笑顔を浮かべ、片手を上げつつそう言うギイにぼくは驚きを隠すことなく彼を呼んだ。

「な、んで?会えないって…忙しいって言ってたよね?まさかまた島岡さんに無理言ったんじゃ…」

ぼくはそこが往来なのも忘れ、ギイに詰め寄った。

「違うって。その島岡のサプライズ」
「どういうこと?」
「今日から一週間、休暇なんだ。私からのバースデープレゼントです、託生さんによろしくだとさ。ご丁寧に日本行きの航空券つきでな…」

ギイが苦笑しつつ、

「とりあえず乗れよ、託生」

と助手席のドアをあけてくれる。

「うん…」

まだ驚きが冷めやらず促されるままぼくが車に乗ったのを確認したギイは運転席に回り込み、自分も乗り込んで車を発進させた。

「……託生?」

俯き黙り込んだままのぼくを訝しむように呼ばれた。

「…会えるなんて思ってなかったから…」
「そうだな…あ、託生、メールありがとな…」

信号待ちで車を停めたギイはスマホを取り出し、軽く振って見せた。

「あ、うん。…ギイお誕生日おめでとう」
「サンキュ、やっぱり直接言われたほうがいいな」

ギイは笑みを浮かべた。

「……こっちに来てから見たんだよね?いつ羽田に着いたの?」
「14時過ぎくらいだったかな」
「すぐ連絡くれればよかったのに…」

ぼくはギイの返事にそう返す。

「着いてすぐ託生に連絡入れようと思ったんだが、その時間じゃまだ授業中だろ、それなら学校のそばで待ってれば会えると思ってさ」
「そりゃそうだけど…いきなりすぎてまだドキドキしてるよ。いつ決まったの?メールじゃ言ってなかったし…」
「あのあとだよ、行き先が空港だったからさ、スケジュールに変更かって島岡に尋ねたらさっきの返事が返ってきた」
「…そうなんだ、じゃあ島岡さんに感謝しなきゃね……」
「そうだな…帰ったら今まで以上に頑張るさ…それより託生、明日の予定は?」

ギイは唐突に話題転換し、ぼくに訊ねた。

「今日で前期最後だから明日から夏期休暇だよ、どうしたの?」
「そっか…じゃあ託生、今日から一週間オレに付き合ってくれよ」
「もちろん、ぼくだってギイと過ごしたいよ、あ……っ!」
「どうした?」
「え……っとさ、言いにくいんだけど……プレゼントまだ用意してないんだ…」
「なんだ、そんなの気にするなよ、オレは託生と過ごせるだけでいい、それがなによりのプレゼントだ」
「そういうわけにはいかないってば。ところで、どこへ向かってるの?ウチへくるんじゃないの?」

車窓から見える景色がいつの間にか高層ビル群を写しており、ギイに聞いてみる。

「ホテルだよ、ほら」

ギイは内ポケットからチラリとカードキーをみせる。

「これも島岡からのプレゼントなんだ。最近頑張ってらしたので、こちらはオマケです、ってさ。着いたの早かったから先にチェックインだけすませてきたんだ」
「そのまま行くの?え、待って。ぼく着替えもなんにも…」
「心配ない、ランドリーサービスあるし、どのみち明日は1日、服着ることはないだろうしな……」

意味ありげにぼくを見つめたギイはクスリと含み笑いをこぼす。

「……っ、な、なに言って……っ!」

意味がわかり、盛大に赤面したぼくはフイっと窓のほうに顔を背けた。
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