ハク王呀物語
□第U章 第1部
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トテトテトテ…
ギシギシ…
木造の家は歩を進める度ギシギシと音を鳴らす。
場合によってはうるさく感じるそれも、朝方には起床したときの合図になる。
「いつも時間通りで助かるわ」
台所に立つ母は、その音が聞こえて呟く。
スッ
「おはようございます」
「おはよう、王呀」
母は振り返り、襖を開けて入ってきた獅子獣人の子どもに笑顔を見せる。
「ハクはまだ寝ているの?」
「はい、すいません」
「あら、あなたが謝ることはないわ。それに敬語も」
母は優しく微笑み、朝食の準備を続けた。
王呀はその傍らで朝食ができるのを静かに待つ。
スッ
「お、早いな王呀」
再び襖が開いたかと思うと、父が起きてきた。
「あ、おはようございます」
「おう、おはようさん。…何だハクはまだ寝てるのか」
座るな否や母と同じことを言った。
「まったく、王呀を見習ってほしいわ」
「ハハハ…」
母の冗談混じりの言葉に、王呀は苦笑いするしかなかった。
王呀が来てもう6年になる。小学生だった彼も中学生になり、心身ともに立派に成長している。
そして彼の記憶は未だ回復していない。
本人がどう思っているのかはわからないが、『このまま思い出さない方が良いのでは』と母も父も考えていた。