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□白黒日和*1
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辺りは闇にすっかり塗りつぶされていた。フクロウの声がその闇を強調するように響いていた。夏の生ぬるい風に煽られ蘆が不気味にざわめいた。蘆の林を分け入っていくと、とある池がある。雑草が生い茂りコケが蔓延ってそこが長い間人の目に触れられなかったことを示していた。


それなのに。


長い間流れを失っていたはずのその池は不自然な程澄んでいた。深い深い辺りの闇を呑み込んだような暗い色の美しい池はぽっかりと浮かんだ月をも吸収しようとしていた。

風が突然凪いだ。
行き場を失った温度が淀み、辺りを満たしていく。


ちゃぽん


池に一つの波紋が出来る。この中に生きるものは存在しない。波紋は絶え間なく浮かんでは消えていく。

「どうして、俺はここにいるのかなぁ……?」
どこからか声が聞こえた。
「どうして、俺には誰も居ないのかなぁ……?」
問う声は無機質な響きを持っていた。池に浮かんだ波紋は小さくなってやがて、消えた。
池のほとりにあるひしゃげたような形の松に青年が腰掛けていた。青年は酷く濡れていた。足元には小さな水溜まりが出来ていた。
青年の蒼い瞳には何も映っておらず、ぼんやりと虚空を見つめていた。
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